白雪千夜「私の魔法使い」
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41: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:14:09.85 ID:ldlfMP+C0
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「お疲れ様です、プロデューサーさん。首尾はいかがですか?」

 舞台袖で待機していると、ちひろが様子を見にやってきた。一対の衣装を身に着けたちとせと千夜は開幕を前にして2人で何か話している。
 その待ち切れないといった表情を見て、安心して答えられる。

「ご覧の通りですよ。……あれならきっと、やってくれる」

 懐の動かない懐中時計を取り出し、数々の思い出を蘇らせる。そのどれにも負けないくらいに2人はアイドルとして歩き出せていた。

「あの、聞いてもよろしいですか?」

「はい。何でしょう」

 ちひろに気付いたちとせがウィンクを投げ、千夜が会釈してみせる。それらに笑顔でひらひらと手を振り返してから、ちひろはプロデューサーに尋ねた。

「あの子たちをプロデュースする気になった理由です。あの頃のプロデューサーさんは……その、プロデューサーを辞めてしまうんじゃないかって、そんな雰囲気でしたから」

 未だに首を切られていないことが不思議なくらいだ。
 ますます輝いていくアイドルたちの光を失うことを恐れ、怖くなって逃げ出した。すんでのところでちひろの尽力もあり、受け持っていたアイドルたちの後は引き継いでもらえたが、自分まで事務所に繋ぎ止められるとは思っていなかった。

 結局戻ってきてしまったのだから、事務所の判断は正しかったといえる。ちひろにしても、あの時ばかりは一介のアシスタントでは済まされない働きようだった。
 謎が多く懐の広い事務所だからこそ、業界大手の看板を背負えているのかもしれない。

 改めて、当時を振り返る。きっかけは分かりきっていた。

「……ちとせのおかげ、ですかね。変えてくれるんじゃないかって、ちとせと出会った時に感じたんです」

 自棄になり当てもなく街中をさまよっていた時だ。見知った通りに、慣れ親しんだ街並み。そこに行き交う人々の全部が自分のよく知る世界の住人ではない、そんな孤独に囚われていた矢先。

 灰色な世界から急に色が浮かび上がってくるかのように、気が付けばちとせは目の前にいた。ちとせとしてもそれは同様だったらしい。

 話してみると、確かに魅力的な少女だった。外見もさながら吸血鬼の末裔を悪戯っぽく自称する様は、本当にいるかもしれないと思わせてくれる気品も兼ね備えていた。

 こちらが身分を明かすと、以降は親し気に魔法使いさんと呼んでくれている。
 吸血鬼と魔法使いが密会を果たしたのがどこかの怪しい城でもなく、天下の往来だなんて可笑しいね、そう笑うちとせを見て心は決まったようなものだった。

 いや、実はもう一つ決め手になったものがある。それが何なのかは……勘としか言えないが、往々にしてスカウトする時はそんなものだ。

「そうだったんですか。あの頃のプロデューサーさんだからこそ、良い出会いに巡り合えたんですね」

「次の日には千夜にも出会えたし、まあ千夜とは別な意味で記憶に残る出会い方をしましたけど――千夜に会えたのもちとせのおかげですから」



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