39:10/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:11:59.79 ID:ldlfMP+C0
休憩していた姿を見られたくなかったのか、取りこぼしたペットボトルを小脇に抱え、一度背を向けて最小限の動きでレッスン着を整えたのち、咳払いをしつつ振り返る。
この間10秒と経っていない。取り繕っている間に少し顔が紅潮したようだ。
「……久し振り。元気にしてた? ちゃんと食べてるの? また老けたんじゃない?」
「最後のは余計だよ。えっと、久し振り」
挨拶は交わしたものの、なかなか目を合わせられないでいる。それは美嘉も同じらしく、どこかそわそわしていた。
「聞いたよ〜? 女子寮行ったんだって、前もって言ってくれてたらアタシも行ったのに……」
「急な用件だったからさ、仕方なかったんだ」
「……ふぅん、アタシに会いたくないってわけじゃ、なかったんだ。莉嘉も会いたがってたよ、今日アタシだけプロデューサーと会えたなんて知ったら、絶対うるさいんだからね?」
姉に憧れてカリスマギャルを目指している城ヶ崎莉嘉、姉妹揃ってプロデュースしていたのももう半年以上前になる。
ちひろから報告は上がっていたが、それでもアイドルを続けている姿が見られて嬉しい反面、放り投げてしまった申し訳なさが胸の奥からじわじわと染み出してくる。
「ちょ、その顔はなし! アタシは何とも思ってないから、あーでも、何ともってわけじゃないけどそういう意味でもなくって! ……何言ってんだろ。そっちは、もういいの?」
「……まだかかる。今度、ああ……ちょっと前からプロデュースしてる子たちがいるんだ」
「それも聞いてる。勘は戻ってきた?」
「そんなんじゃないよ。でも、そうだな……今度こそ、一から歩いて、美嘉たちのいるところまで引っ張っていけた時には」
「……うん、待ってる。でも早くしてよね。自分ばっかり年取ってるつもりなら、アタシたちだってすぐオトナになっちゃうんだから★」
「厳しいなあ……ありがとう、美嘉。莉嘉にもよろしく、は言わないでおいたほうがいいのか?」
「どうだろ〜、あの子もまだまだお子様だけど、難しい時期だしね。プロデューサーが会ってあげたら手っ取り早いのに」
「……まあ、運が悪ければ会うこともあるさ。うちのアイドルなら」
「そういうこと言わないの! アタシは……ほんの少しでも、プロデューサーと話せて、嬉しかったんだから。……うん、それだけ! またね!」
パタパタと顔を手で扇ぎながら、美嘉は足早にレッスンルームの方へと消えていった。
その背中を名残惜しく思いながら、ここに来た理由を思い出し急いで缶の飲み物とスポーツドリンクのペットボトルを買い、自分の居るべき場所へと半ば駆け足で戻る。
美嘉や莉嘉、それだけじゃない。心配させないためにも、今はあの2人に集中しなくては。
部屋を出てから時間にして十分も経っていないが、買ってくるものを考えれば途中で何かあったと思われるだろう。
部屋に入る前、一呼吸おいて何でもないような顔を作ってから中へと入った。
「ただいま、って何やってるんだ……?」
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