白雪千夜「私の魔法使い」
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38:10/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:10:14.40 ID:ldlfMP+C0
「そうだなぁ。私たちの楽園に連れていってあげる、とか」

「ら、楽園? 楽園って……」

「あは♪ 期待しちゃった?」

「お前! そんな目つきでお嬢さまを見るんじゃない!」

 いつかのように素早く何かを取り出した千夜は、今度は加減なくそれを噴き付けた。

「ちょおっ! なんだこれ冷たっ!? いててて冷た、冷た痛い!!」

 目に染みて痛み出すことはないが、白く凍えさせてくるそれの正体はコールドスプレーだった。
 催涙スプレーより振りかけるには手心を感じられたが、使い方は著しく間違っている。

「あ、千夜ちゃんそれ貸して。涼しくなれそう……」

「これは医療器具ですので申し訳ありませんが……」

「……知った上で俺には容赦なく使うの?」

「ふん、適切な距離というものがあるのです。近付き過ぎればこれと同様、その身に害を及ぼすでしょう。勉強になりましたね」

 まだまだ心を開いてはくれないようだ。部分的に凍結しているスーツをなぞってみると、ひんやりしてなかなか気持ちが良い。

「あー、魔法使いさんばっかりずるい。……私にも触らせてくれない?」

「そんなことを許したら晴れ舞台が拝めなくなりそうだから……冷たいジュースなら買ってくるよ」

「いいの? 何をお願いしよっかな、千夜ちゃんは?」

「私は別に。……こいつがどうしてもというなら、まあ、スポーツドリンクでも」

「はいはい。ちとせは?」

「んー、缶なら何でもいいかな。喉は乾いてないし、凉を取ったら冷蔵庫に入れておいて。魔法使いさんが飲んでくれてもいいよ」

「なんだそりゃ。いいけどさ」

 身体に貼って熱を取り去るシートでも常備しておくべきか検討しつつ、近場の自動販売機へ足を運ぶ。最寄りだとレッスンルーム近くの休憩コーナーだ。

 待たせている2人を思い、早く買って戻ることだけを考えていて、つい忘れていた。今の時間なら、誰かしらいてもおかしくなったことに。

「……えっ?」

 財布を取り出そうとした手が止まる。先客から漏れ出た驚嘆の声、その聞き覚えのある声にゆっくりと振り向く。

 かつて担当していたアイドルの内の一人、城ヶ崎美嘉だ。世間ではカリスマギャルと謳われるほどになった彼女が、妹思いの優しい少女でもあることは忘れやしない。
 なるべく鉢合わせにならないよう気を付けていたはずが、ついにやってしまった。ちひろの計らいで女子寮を訪問した時とは違い、お互いに何の前触れもなかったのだ。

 彼女は女子寮を利用していないため、これが久方振りの邂逅となる。持っていたペットボトルを落としてしまう程度には美嘉も動揺していた。ふたはされてあり最悪の事態にはなっていない。

「わっ、嘘、待った! ああもう何でこんな時にっ!?」



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