白雪千夜「私の魔法使い」
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32: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:03:42.47 ID:ldlfMP+C0
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 打ち合わせから戻ってくると、デスクには淹れてからまだ数分と経っていなそうなコーヒーが用意されていた。

 今日は2人ともオフの日であり、とすればちひろの粋な計らいだろうか。何にしてもありがたく頂くことにし、席について一口味わう。どことなく高級感の漂う風味なのは、これもちとせの好みに合わせたものが取り入れられた結果なのだろう。

 そういえば、ここ最近は部屋の改装が全く行われていない。必要最低限の他に何もなくなった部屋が、再び少しずつ様変わりしていくことに一喜一憂したものだ。
 それとも、ぐずついた天気が連日続いているせいかもしれない。ぎらつく太陽が日中を照らし出すようになるまでは、この城の主たる座を譲り渡すには至らなそうである。

 さて二口目を楽しもうとした時、誰かが部屋に入ってきた。恐らくこのコーヒーを淹れてくれていた人物だ。

「ちひろさん、コーヒー頂いてます……よ?」

 しかしてそこに居たのは千夜だった。

「残念ながら白雪です。ばーか」

 意外な人物の登場に頭が追い付かない。今日はオフだったはずだ。

「? なんでここに」

「それよりも、飲みましたね」

「……これのこと?」

 どうやらこのコーヒーは千夜の仕業だったようだ。だからといって疑問は減るどころか増える一方なのだが。

「ただで飲めるなんて甘い考えは捨てなさい。お前はもう、飲んでしまった」

「じゃあ返すよ。……嘘だから、そんな嫌そうな顔するなって、冗談です」

「笑えない冗談は冗談とは言いません。では、対価を支払ってもらいますか」

 好き放題な立ち振る舞いを披露しつつ、千夜はソファへちょこんと座った。今度は何を仕掛けてくるのか見守っていると、ポンポンと空いている隣の空間を軽く叩いている。
 座れ、という意味であることを察するのに時間は要さなかった。

 コーヒーがこぼれないようそっと運びながら、千夜の隣に腰を下ろす。何か話があるに違いない、この前経験したばかりのシチュエーションだった。

「私は買い出しのため外出している、そういうことになっていますので忘れなきよう」

「ちとせには内緒ってことか。何でまた?」

「そこはあまり重要ではありませんが、強いて言えば……後々面倒なことになるから、か」

 ちとせのことだ、わざわざ休みの日に事務所まで会いに来たという事実だけで、いくらでも千夜を可愛がることだろう。

「長居するつもりはありません。お前にも仕事があるのでしょうし」

「一段落ついたところだから問題ないよ。タイミングはばっちりだ」

「それは当然です。……いや、なんでも」

 さすがにいつ帰ってくるともわからない相手にコーヒーを淹れて待ったりはしないだろう。
 ちひろに聞いて当たりを付けていた、ということで納得する。下手に触れるとまた睨まれそうだ。



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