白雪千夜「私の魔法使い」
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31:8/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:02:39.80 ID:ldlfMP+C0

「――これを着ろと、いうのですか。……悪趣味な」

「えー、絶対可愛いよ千夜ちゃん♪ なんなら持って帰っちゃう?」

「こらこら、せっかく用意した衣装を持って行かないでくれ」

 オーディションの結果が届き、ユニットデビュー前の最後の最後にして2人揃って採用されたのだ。レッスンに充てる日が僅かに減るが、1人のアイドルとしてそれぞれが前進した事は素直に祝いたい。

 前もってそれぞれに用意していたアイドルとしての衣装も、これでお披露目できるというものだ。

「まさか、こんなメイド服のような何かでお嬢さまと……?」

「いや、ユニットの舞台衣装は別にあるから。それとメイド服で合ってるし。千夜なら着慣れてるかとも思ったんだけど」

「妄想に浸りすぎでは? こんなもの……まあ、客観的には、可愛い服に部類するとは思いますが」

「千夜ちゃん待っててね、すぐにこれと似た服探してあげるから」

 以前アイドル活動用にと渡したものではなく、自前のスマートフォンを駆使しだすちとせだった。各所からカタログを取り寄せるつもりらしく、レッスン後で疲れているとは思えない本気っぷりだ。

「……こうして私はああいうのを着慣れていくんですね。お前! 一体どうしてくれるつもりだ」

「よ、世の中には、可愛ければ正義という言葉があってだな」

「ほぅ。ならば受けてみますか、その正義とやらを」

「何するつもりなの!? ……、ははっ」

 まったくお前は、とこぼす千夜も、別段怒ってはいないようだ。
 他愛のない雑談で自然と千夜との会話が成立し、付きまとっていた気まずさもひとまずは感じられない。メイド服様々である。正義はここにあったのか。

「お嬢さま、え、もうこんなに注文……んんっ。お嬢さまはご自分の衣装に何か不満はないのですか?」

 何かを見なかったことにして仕切り直した千夜は、ちとせにあつらえられた衣装へ興味を逸らさせようと必死だった。

「あー、ごめんね。千夜ちゃんがレッスンを頑張ってるとき、魔法使いさんの仕事っぷりを確認しについて行ったら、私の分だけ先に見つけちゃったんだ。感想は……棺桶に入る時、着せてもらいたくなっちゃった♪」

 ちとせに用意されていたのはヴァンパイアの姫君をコンセプトにした衣装だった。素でこれを着こなせそうなアイドルもそうはいないだろう。

 一目見ただけでもう離れない。ちとせと出会った時の衝撃や、醸し出される妖しい雰囲気に見合ったものを、なんとか形に出来たようだ。

 とはいえ、ちとせが言うと冗談に聞こえない感想は控えてもらいたいものだ。

「これなら……お嬢さまにさぞお似合いでしょう」

「千夜だって似合ってると思うよ? メイド服」

「似合っているという表現が誉め言葉だと学校で習いましたか?」

「あのなあ、さっき自分の主人に向けて言ったセリフ覚えてる?」

「うるさいな。文句があるならまずは趣味を改めなさい」

「趣味って……」

「お嬢さまもこいつに何とか言ってやってくださ――お嬢さま? その量は一晩ではさすがに……お嬢さま!? もうその辺で……くぅっ」

 千夜を巻き込んでの厳正な審査は、それから三日三晩行われたとか。






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