白雪千夜「私の魔法使い」
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30:8/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:01:35.83 ID:ldlfMP+C0
 ちとせの体力を考慮し、ダンスパートは千夜に比重を置き、その分の歌唱パートをちとせが受け持つ。それぞれの長所を活かした変更、といえば聞こえはいいが。
 反応を待つと、先に答えたのは千夜だった。

「お嬢さまのためになるなら、私は構いません」

 思った通りの返事だ。千夜ならちとせを案じた目論見とあらば否定などしまい。
 しかしこれは2人のユニットとしての問題だ。ちとせの意見も聞かずには何も始められない。

「それって、私の分まで千夜ちゃんが頑張らなきゃいけない、ってことだよね」

「運動量って意味なら、そういうことになるかな」

 姿勢を正し考え込むちとせに、千夜は迷いなく言う。

「考える必要はありません。お嬢さま、私なら大丈夫ですから」

「うん……魔法使いさんたちが正しいんだよね。自分の身体のことだもん、それは判ってるつもり」

「でしたら、何をお考えなのですか? 何をためらわれているのです?」

 ちとせは考え込む素振りを見せつつ、ちらと目線だけでこちらへ訴えかけてきた。
 本心ではちとせもそうするべきだと思っているのだろう。だがそれで納得するかは別の話だ。

 ちとせが満足してくれるアプローチをしなくては。ただ千夜に体力的な負担を肩代わりさせるのではなく、ちとせと千夜だから成り立つユニットなのだと。
 主従関係は後から付いたものだ。千夜がちとせを大切に想うように、ちとせもまた千夜を大切に想っている。舞台の上では、そんな2人も存分に表現してほしい。

「……今ここにいる2人を、ファンに伝えられるように。知ってもらうために、最高のパフォーマンスを引き出したい。今のちとせに無くて千夜にあるのが華麗なダンスなら、今の千夜に無くてちとせにあるのは聴衆を魅了する歌だ。補い合えば、互いを引き立てられる」

 ぽつぽつと紡がれていった言葉は、やがて重みを増し、力強く発されていた。

「今出来る最高到達点を目指そう。いつか補い合う必要が無くなったなら、その時は並び立って見せてくれればいい。2人の創る最高の舞台を――それじゃだめかな」

 長くない、そう宣告したちとせがどこまでの未来を描いているかはわからない。
 だが今回はデビューするための初舞台だ。ここから始まるのだから、当然その先も見据えていてもらわなくては困る。

 思わずこもってしまった熱が届いたのか、神妙に聞き入っていたちとせは止まった時間が流れ出すように、うん、とゆっくり首肯した。

「いつか、かぁ。そんな日が……来るといいな」

 千夜に微笑みかけるちとせの紅い瞳は、どこまでも真っ直ぐに千夜を見つめている。
 そんな儚げな主人の眼差しに、従者は何を以って応えるべきなのか。

「お嬢さま……」

「まずはちゃんとデビューしなきゃ。そうでしょ、魔法使いさん?」

 ああ、と返そうとしたところに、プロデューサーの携帯電話から着信音が鳴り響いた。






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