3: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:27:17.51 ID:ldlfMP+C0
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「ここが、魔法使いさんのお城?」
その広さに見合わないたった2人分のデスクを見ながら、鮮やかなブロンドをたなびかせる少女は使う者が久しくいないソファへ腰を掛けると、他に目を引く物もなく期待外れとでも言わんばかりに顔を曇らせた。
閑散としたこの部屋の主である魔法使いことプロデューサーは、機嫌を損ねないようローブでも黒帽子でもなくスーツ姿を引き締めながら答える。
「ちょっと広過ぎる、かな? ははは……」
かつて十数名を超える少女――アイドルたちが集っていたものだが、彼ともう1人を残し他に誰かが入室する様子はここ数ヵ月見られない。
不満そうにしているブロンドの少女へどう言い聞かせたものか考えていると、隣に座りもせず彼女の傍らに甲斐甲斐しく控えていた短い黒髪の少女が割って入った。
「お嬢さま、このような場所まで華やかである必要はないかと」
「えー、そうかなぁ? これじゃ千夜ちゃんの部屋みたいだよ、寂しくない?」
「私は必要なものさえあれば良いのです。お気に召さないのであれば、内装をお嬢さま好みに替えさせましょう」
「あは♪ それいいね、構わないかな魔法使いさん?」
返事を待たずして、欲しいものを指折りに数え出すブロンドの少女――黒崎ちとせは、早速あれやこれやと自ら千夜ちゃんと呼ぶ黒髪の少女――白雪千夜に相談している。
そう呼ばれるだけあるお嬢様然としたちとせは、人目を惹くには充分過ぎる美しい容貌を備えている。クォーターらしく天然で金髪に紅い瞳を持っており、スタイルの良い身体を着飾る装いは袖をだぶつかせてはいるが、はっきりとどこかのご令嬢だとわかった。
そんな彼女に付き従う千夜は、主人よりも細身な身体を黒い学生服に黒いインナー、黒い手袋に黒いタイツと、短く清楚に切りそろえられた黒髪も相まって、黒一色に身を包んでいる。
紫色の瞳は己が主人しか捉えていないのか、せっかくの凛とした容姿をなかなか正面から拝ませてはくれないでいる。
そんな2人に部屋の主たる地位が早くも揺るがされようとしていた。
プロデューサーはしばらくぶりにこの部屋で響く少女たちの、主にちとせの快活な声が途切れるのを申し訳なく思いつつ遮った。
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