白雪千夜「私の魔法使い」
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27:7/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:58:03.24 ID:ldlfMP+C0
「……お前は、ずるい」

 振り絞るようにそれだけ言うと、千夜はそのまま押し黙る。言葉が上手くまとまらないのか、口を開いては俯きながら手で覆って出掛かった声を飲み込む、そんなことを繰り返していた。

 様子のおかしい原因は見当もつかない。ただ今は、千夜を苛ませている何かを知るのが先決だとプロデューサーは感じ取る。

「そっち、いくよ。ゆっくりでいいから聞かせてくれないか。考えてること、全部。文句でもなんでも、全部聞くから」

 返事はないものの、拒むつもりもないようだ。
 席を立ち、迷いつつもソファに座った千夜のすぐ隣へと座る。向かい合うよりは話しやすいと思ったからだ。

 さて、どうするか。千夜はまだ言葉を紡げないでいる。せめて千夜から向けられている感情の正体だけでも掴まなければ。

「俺のこと、軽蔑してる?」

 千夜は首を横に振った。責めていたわけではないのだろうか。

「ずるい、ってのは俺がみんなから逃げたから?」

 またも違うらしく、首を横に振る千夜。
 それ以上は探りを入れようにも、取っ掛かりすら見えてこない。千夜が考えをまとめるまで待つしかなさそうだ。

「……。私がお嬢さまに仕えることになった経緯は、聞いていますか」

 ようやく話す道筋を立てられたのか、千夜はちとせの特等席に目をやりながら呟く。
 いつかちとせが語ったことを思い返す。

「独りになった千夜を、ちとせが……」

「そうです。12のとき独りになった私を、黒埼のおじさまが家にこないかと誘ってくれました。お嬢さまの働きかけも当然あったのでしょう」

 独りでは闇に沈んで行ってしまいそうだったから自分のものにした、とちとせは言っていた。

「養子にはなりませんでした。おじさまが後見人になってくださっていますが、使用人として雇われている。そういうことになっています」

「だから僕ちゃん、なのか」

「おい、その名で呼んでいいのはお嬢さまだけだ」

「すみませんでした……」

 触れてはいけないラインらしい。肝に銘じておかなくては。

「えっと、それで?」

「私には……何もない。私の人生という物語の主役はお嬢さまであり、お嬢さまと過ごせる時間はお嬢さまの望むそれであれば良いと……そう願っているから、こんなところにいます」

 千夜がちとせに尽くしているのは、全てを失った千夜に唯一差し伸べられた光だったからなのだろう。同じ境遇に立たされてみなければ、その忠誠心はきっと推し量れない。



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