白雪千夜「私の魔法使い」
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26: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 19:57:00.32 ID:ldlfMP+C0
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 ちとせがレッスンで不在の中、ソファに座り主人の帰りを待つ千夜はただの一言も発さなかった。
 これまでも用が無ければ特別言葉を交わすこともなかったとはいえ、顔を合わせても挨拶すらなく、ひたすら黙ってちとせを待っている。

 たまに視線を感じはするが、どうにも刺々しさを帯びており振り向くことが出来ない。涼やかな横顔で千夜は何を思っているのだろうか。

 頼みのちひろもこの部屋に来る予定は入っていない。どうしていいか誰か教えてほしい。
 ただ虫の居所が悪い、というだけで済む気配じゃないことは雰囲気から察せるのだが。

「――お前は」

 プロデューサーが迷いあぐねていると、ようやく口を開いた千夜の声は、2人では広すぎる部屋にも不思議とよく通った。

「どうしてお嬢さまと私の面倒を見ているのですか」

 些細な動向も見逃さない、といった眼光に気圧されながら、千夜の言葉の意味を考える。
 今になってプロデュースしている理由が気になった、という風ではないだろう。仕事だから、は求められている答えではない気がした。

「言い方を変えます。お前には他に面倒を見るべき人たちが、いるのではないですか」

「……ちひろさんに聞いたのか?」

「質問しているのは私です」

 ぴしゃりとはねつけ、譲らない確固たる意志を見せつけられる。
 ちとせが嘘を見抜くなら、千夜は真実を口にするまで引かない。どちらにせよ白黒つけるまでこの問答は終わらないようだ。

「……いる。いや、いたが正しい」

「過去形、か。この部屋の広さもその名残、違いますか」

「そうだよ。その頃はちひろさんもほとんど付きっきりでいてくれてたし、みんなでトップアイドル目指そうって……大きな夢を見てたんだ」

「それが何故、こうなっているのでしょう。お前が夢を見せておいて、ひとり目が覚めたからと放っておいているのですか」

「……ああ、そうさ。叶わなかった時のことを恐れて、逃げ出した。そのくせこうしてこの仕事にしがみついている」

 言い訳はしない。かつての喧騒も未だに聞こえてこないのが、彼女たちから逃げ続けている何よりの証拠だ。
 奥歯を噛み締め、せめてちとせと千夜に背を向けることが無いよう、こちらを捉えて離さない視線に真っ向から立ち向かう。

 すると、問い詰める側の千夜の方が、逆に目を伏せてしまった。今ここで苦しい思いをすべきなのは千夜ではないはずなのに。

「えっと、千夜? 聞きたいのってそれだけ?」



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