106:27/0 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:37:03.67 ID:ldlfMP+C0
一転して、あの全てを見透かすような瞳になった。やっと記憶にあるちとせの雰囲気に近付いてきたが、それはそれで緊張する視線でもある。
「大丈夫、もう取って食べようなんて思ってないから。そんな寂しそうな顔されてても美味しくなさそうだし、ねっ」
早くも見透かされたものの、この瞳さえあれば何とかなるような気がしてくる。何とかしなくては、悪夢は覚めないままになってしまう。
……取って食べるとは文字通りの意味なのだろうか。得体が知れないままなのはいろいろよくない、そう直感するプロデューサーだった。
「なあ、君の……その。正体? 教えてくれないか?」
「なぁに? もう知ってるんじゃないの?」
「何となくは。本当にそうなのかまでは聞かなかったし、確かめようもないから」
「なら、あなたの考えてる通りで合ってると思う。それよりも……今度は私の番ね」
楽しそうなちとせを見ているだけで、この時まで戻ってきたかいがあったというものだ。
順番とばかりにちとせは同じ質問を返した。
「あなたは何者なのか。これから知っていけばいいかと思ったけど、ショーの始まりは突然なんだもの。ねぇ、今ここで教えて?」
「当ててみたら?」
「……予言者、ってわけじゃなさそうだし、私を捕まえに来た危ない人! って感じなら、そんな顔しないよね」
よほど顔に出ているのだろうか。これがそのうち老け込んだ、に変わっていくことは経験から学んできた。実際に戻ってきた分は老けているので間違いではないのだが。
「もしかして、魔女さんの知り合い?」
「その魔女さんがどんな人か知らないけど、似たようなものかな」
プロデューサーは懐から懐中時計を取り出す。針は12時で重なったまま動かない。
新しい思い出となった2人の少女と過ごした日々を、再びこの時計に刻まれる時がこないことを信じて。
「魔法使い、だよ。ろくでもない夢を無かったことにするしか出来ない、最低の……ね」
111Res/266.62 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20