白雪千夜「私の魔法使い」
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105: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:35:41.54 ID:ldlfMP+C0
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 白へと落ちていった先には、黒が待っていた。

 正確には夜の世界だ。頭がぐらつきながら、桜もこれから色めこうとしている気候を肌で感じ、だんだんとはっきりしていく視界には――

「……ねぇ、聞いてる? ボーッとしないで」

 聞き覚えのある声の主は、いなくなったはずの少女のものだった。

 何もかもが灰色に見えていた世界で出会い、言葉を交わし、再びアイドルのプロデューサーとして歩むきっかけをくれた少女の名を、忘れるわけがない。

 そして――千夜と出会うきっかけをくれたのも、彼女だ。

「ああ、聞こえてる。……黒埼ちとせ、さん」

 少女の名を口にすると同時に、微笑みはそのままに紅い瞳がプロデューサーを射抜く。初対面のはずが名前を知られていたとなれば、警戒もするだろう。

 このリスクがあるため本来は様子を探り、それまでの会話の流れを掴むまで相手のことを知らない前提で話さないといけない。

「ふぅん……様子がおかしくなったと思ったら。本当は知ってて私に近付いたんだ」

 背筋がたちまち凍っていく。声だけでこんなにも相手を圧倒する迫力が出せるとは。

 しかし、怯むわけにはいかない。これもちとせの新たな一面を引き出す好機だったと捉えよう。

「知ってるよ。知ってきた、と言うべきか」

 紅い瞳を真正面から見つめ返す。意味深な物言いに興味を持ってくれたのか、下がっていた周囲の気温が上がったように感じた。

「……あなた、面白いこと言うね。私の何を知ってきたというの?」

 答えた内容によっては何をされてもおかしくない、という雰囲気を残して尋ねられる。

 はたしてプロデューサーはちとせの何を知ってきたというのか。お互いに踏み込まないまま別れることになったではないか。

 ちとせについて知っていること。確かに言えることがあるとするなら、それは彼女が大切にしていたもののことだけだ。

「太陽、みたいだった女の子のために、自分の命を燃やしていること……ぐらいなら、知ってる」

 ちとせと過ごしてきた時間は、千夜のためにあったといっても過言ではない。

 だが、ちとせの願いだったかつての千夜を取り戻すためには、ちとせの存在が必要だとわかってしまった。

 ちとせにはあんな風に消えてもらっては困る。千夜が自身を取り戻すまで、どうかそばにいてほしい。

 ちとせがアイドルを続けていけるように、ちとせのことを知らなければ。光明が見出せるとすれば、それしかない。

「……ふふっ」

 千夜のことを触れられ意表を突かれたのか、目を丸くしていたちとせがやっとプロデューサーに審判を下したようだ。

「……あはははは♪ そんな口説き文句、どこで覚えてきたの? 私にしか通じないんじゃない?」

「いいんだよそれで。そのために戻ってきたんだ」

 射抜くような視線は解除され、朗らかな笑い声に場の空気が弛緩していく。

「今度は推理ゲーム? くすっ、戻ってきた、かぁ」



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