白雪千夜「私の魔法使い」
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102: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:31:45.36 ID:ldlfMP+C0
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 事務所の自室で1人、プロデューサーは茫然自失になりながらデスクで千夜からの連絡を待っていた。

 ちとせから託されたもう1つの大事な物。千夜に宛てられた手紙を会場から撤退する際に渡してから、1日が経過していた。

 千夜のLIVEパフォーマンスはレッスンでも見られなかったほどの素晴らしいものだった。

 1人用に組み直されていたはずのダンスや歌唱のところどころに、ちとせを彷彿とする優雅な笑みや気品を浮かばせて、2人で舞台に立っているような気にさせられたのだ。

 長年の付き合いが為せる業なのか、それともちとせが本当にそばに付いていてくれたのか。

 極めつけは、プロデューサーも見たことのない千夜の笑顔がステージを彩っていた。

 ちとせに届けようとしていた笑顔は、ちとせの思い出として刻まれていた太陽のような輝きを、どこまで取り戻したものなのか。それを教えてくれる人はもう、いない。

 そんな最高の舞台を1人で創り上げて帰ってきた千夜に待っていたのは、プロデューサーからの称賛ではなく、残酷な報せであった。

 LIVEを終えすぐにでもちとせのもとに向かおうとする千夜へ、プロデューサーは何も告げられないまま封筒を手渡す。

 尋常でない気配を察してか読む前から陰り始めた千夜の面持ちは、やがて絶望に染まっていく。アイドルの絶望、プロデューサーがアイドルたちを輝かせてきた裏で、何度も経験してきた光景だ。

 光を失い、笑顔を失う。共に歩んできたアイドルに一番してほしくなかった顔をさせてしまっている。

 ちとせがいなくなったことで、こうなることは予測していた。それでも現実を突きつけられると頭が真っ白になる。

 千夜の場合、アイドルとしても1人の少女としても輝いていけたはずなのに。

 ちとせが消えてしまった原因はわからないままだが、もしアイドルを続けたからこうなってしまったというなら、なんという皮肉だろう。

 手紙を読み終えるなり、自分の荷物を粗暴に手にして千夜は衣装のまま走り去っていく。追い掛けたかったのに、身体がとっさに動かない。

 いつかちとせが倒れたというメールを受け取り、何も考えず飛び出していった身体を凍り付かせてしまうほど、プロデューサーもまた希望を失っていた。

 絶望の淵に追いやられていったかつてのアイドルたちの影も重なり、夢を悪夢へ変えてしまった魔法使いに何が出来るというのか。

 そう自分を責めながら、小さくなる背中を目で追うことしか出来なかった。

 千夜をそうさせた手紙に何が書いてあったのかは、想像はつくが具体的にはわからない。

 わかることがあるとすれば、ちとせはプロデューサーのすぐそばで消えるようにいなくなった、それだけだ。



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