5: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2020/01/24(金) 21:12:26.48 ID:W4W9+UtG0
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駅前のスーパー
木犀浪学園は山と畑と閑静な住宅地に囲まれている。お店といえば、スーパーとコンビニが1つだけ。ほとんどの生徒が寮に住んでいて、外から通う場合は自家用車による送迎しか認められていない。そう、駅が近いのに電車通学している生徒がいないのよ。生徒は門から出てこないから、彼女達に向けた商売は成り立たない。
「うーん……どうしようかなぁ?」
小さな鮮魚コーナーで、商品を手に取ったり戻したりしながら、かな子は悩んでいた。私の夕食は魚になりそうね。
「よしっ、決めました。奏さん、鮭のムニエルでいいですか?」
「いいわよ」お菓子以外も作れるのね、と言いかけて止める。小麦粉とバターを使うから同じ要領かしら。
「後は、付け合わせとスープにしようかな。ミネストローネ、とか」
かな子はそそくさと店の奥に行ってしまった。はりきっているから、私の洋食は期待できそうね。さて、追いついておこうかしら。
「おや……」
声がしたので振り返ると、クラスメイトの白雪さんがそこにいた。いつも通りのモノトーンの質素な出で立ちは、誰とも会う気がないように見えた。
「あら、あなたも夕食の買い出しかしら?」寮の食堂もゴールデンウィークはお休み。生徒は実家に帰るのが慣例となっている。女子スポーツを先駆けて強化し、強豪となった部活の生徒も慣例には習う。だけれど、白雪さんは帰っていない。
「はい。速水さんこそ、早いお帰りですね」
「ええ、寮の部屋が恋しくなったの」実家の話は出さない、嫌味にしか聞こえないだろうし。
「そうですか。まぁ、事情は色々ありますから」
「……同部屋の先輩は戻ってきてるかしら」あら、こっちが気遣われちゃった。
「相原先輩ですか。まだ秋田です、明日の夕方には戻るそうですよ」
「そう、早く戻ってくるといいわね」この寡黙で感情の起伏が少ない、ように見えるクラスメイトも上品でお節介な先輩には懐に入り込まれている。
「偶には、1人も良いですよ。失礼します」
「ばいばい、またね」嘘だと見抜かれたくなくて、白雪さんは行ってしまった。
さて、と。かな子はどこかしら。
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