4: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2020/01/24(金) 21:10:39.96 ID:W4W9+UtG0
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木犀浪学園駅・改札
改札を抜けると、嫌でも道の先に木犀浪学園の正門が見える。街路樹に囲まれた一本道はここにはそれ以外何もない、そう言いたげに。
「奏さん!」
感傷に浸る間もなく、呼びかけられた。
「かな子、帰ってきてたのね」ルームメイトの三村かな子が手を振っていた。いつも通りの朗らかな笑顔でこちらに向かって来た。わざわざ迎えに来てくれたのかしら、申し訳ないわね。
「はいっ。奏さんが1日早く帰ってくるから私も、って」
「ゴールデンウィーク最終日までゆっくりしていればいいのに。実家、近いのでしょう?」電車で1時間くらいだったかしら。
「奏さんこそ。やっぱり……」
「やっぱり、何かしら?」続く言葉はわかっている。せっかく言い淀んだ先を乞われて、優しいかな子は困惑していた。
「あの!奏さん、家族と上手くいってないんですか……?」
「え?」追及してくるとは思っていなかった。忘れていたわ、三村さんと呼ぶたびに、かな子でいいですよ、と絶対に笑顔で返してくるから私が折れたことを。何千何万回呼んでも、同じ返事が来ることに気づいたら変えるしかなかったわ。
「どうなんですか……?」
「そうね。でも、別に憎んでるとかそういうのじゃないの。ただ、どこかぎこちないだけ」今回は、噓をつかなかった。正直に言ったはずなのに、けむに巻くような言葉になってイヤになる。
「えっと、何でも相談してくださいね。その、話くらいなら聞けると思うから」
「……本当に優しいわね、かな子は」本当に優しいから踏み込むという選択ができる。うわべを取り繕って、私の機嫌を損ねないことを優先しない。どう見ても校風にあわなそうな私に、転校早々にあてつけられたルームメイトだけなことはあるわね。
「そ、そうですか?」
「ええ。ところで、そのバックは何かしら?」かな子は悪くないけれど、私が続きを話す気がないから話題を逸らす。デフォルメされたクマがプリントされたトートバッグ。クマ達はハチミツをなめたり、クッキーを焼いたり、バレーボールをしたり、運動会をしたりしている。
「スーパーにお夕飯の買い物に行こうかと思って。奏さん、今日のお夕飯は準備してますか?」
「いいえ、してないけれど」そう言えば、寮の食堂は明日の夕食からだったわね。実家に帰る理屈の1つにしていたことを思い出したわ。
「それじゃあ、一緒に食べませんか?私、今日は料理しようと思って」
「そうなの?それじゃあ、ご馳走してもらおうかしら」断る方が難しいことを、私はこの1ヶ月で学んだ。それはそれで、心地よいことにも気づいてきた。
「リクエストはありませんか?スーパーにあるものなら、じゃあ、一緒に行った方がいいですね♪」
「そうね、付き合うわ」休暇から帰って来たというのに大荷物も手土産もない私を連れて、かな子は駅前にあるスーパーに向かって歩き出した。
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