芹沢あさひ「この雨がいつか止んだなら」
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97: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:59:43.54 ID:hoMUvMIQo

「時々、分からなくなるんす。何が本当で、何が嘘なのか。こう表現するのが正確なのかは分からないっすけど、わたし、多分プロデューサーのことが好きだったんす。それについては、どうみえてたっすか?」
「俺も同じように考えていたよ」
「そうっすよね、よかったっす。でも、なんだか、いまとなってはそれも全部嘘みたいで。いつかの自分は、全く別の感情のことを好意と錯覚していたんじゃないかなって」
「それは、きっと自然なことだと思う」
「自然なこと?」
「人間には忘却という能力が備わっている。だから記憶は薄れていく。それは感情だって同じだ。分かるだろ?」

 私は小さく頷いて、だけど彼の言葉を否定する。

「わたし、あの人がいなくなったときでさえ泣けなかったんすよ。だから多分、そういう話じゃないんす」

 昔から、泣くのが下手だったのだと思う。
 まるで元栓を締められているみたいに、あるいは蓋をされているみたいに、感情と涙とを結ぶ回路が内側のどこかで完全に切れてしまっている。
 そんな感覚が以前からずっとあった。

 そして、あの日もそうだった。




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