57: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:34:03.88 ID:hoMUvMIQo
運転席の彼が、ぴんと張った両腕をハンドルに添えたまま、ぐっと身体を震わせる。
まるで猫の伸びみたいだと思った。彼は普段からよくこの姿勢で伸びをする。
「一人で行くか?」
背もたれに身体を預けながら、首だけをこちらへ回して彼はそう言った。
私は少しだけ驚いて答える。
「いいんすか?」
「うん。というか、そうするのがいいと思う。俺がいたら邪魔だろうし」
プロデューサーさんと知り合ってからもう三年ほど経つけれど、そのとき彼が浮かべていたのはこれまでのどれとも一致しない類の表情だった。
笑っているのか、泣いているのか。あるいは嬉しいのか、悲しいのか。
そのどちらとも取れるし、だけどどちらとも取れないような、そんな風に私には見えた。
「邪魔だとは言わないっすけど」
私はそこで一度言葉を区切る。一息吐いて、それから続けた。
153Res/110.09 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20