芹沢あさひ「この雨がいつか止んだなら」
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18: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:08:59.91 ID:hoMUvMIQo

 それほど派手に動くような曲じゃない。だけど、これはきっと、感情を込めて表現すべき曲だった。
 エレキギターのカッティングと一瞬の空白を挟んで、いよいよ最後のサビへと流れ込む。
 メロディラインの起伏をなぞるようにして、私の手足は好き勝手な軌道を描いていく。
 いまの私はきっと操られている。この曲が宿した透明な想いの糸に結ばれて、喩えるならマリオネットみたいな感じで、音符の羅列が望んだようにだけ動いている。
 そこに私の意思はない。でも、悪い気はしなかった。むしろ心地がいい。
 私自身のことなんてどうでもいい。私が表現するべきは、自分の感情じゃなくて、楽曲の感情だ。

 弾かれた弦の残響だけを余韻に残して、音楽は穏やかに終わりを迎える。
 身体の中心に逸る鼓動でさえ耳障りに感じるほどの静寂だった。

「お疲れ様」

 そんな声が聞こえたような気がして、ふっと顔を上げる。

 壁一面に取り付けられた大きな姿見の一番奥、私の背後、レッスンルームの壁際。
 紺色のスーツをラフに着崩した、いつものプロデューサーさんが立っている。
 身体を繋ぎとめていた無数の糸がぷつりと切れたような、そんな感覚がした。




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