16: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:06:38.39 ID:hoMUvMIQo
「着いたよ」
そんな声が遠くに聞こえて、私は徐に目を開く。
外の景色は既に流れを止めている。窓の外にはペットショップ、その上が私たちの事務所。
私はシートベルトを外して、それから扉に立てかけられたビニールの傘に手を伸ばす。
そして、それが最後だった。
瞬間、世界の秒針が、私たち二人を刻みつける速度を急激に落とす。
幾度となく巻き返してきた記憶のフィルムは、音も、光も、何もかもを巻き込んで、いつもこの手が届くよりも前にぴたりと止まる。
だって、いつかの私にとって重要だったのは、あの日、あのとき、車の中で交わしたあの会話だけだったから、いまになって思い起こされる映像風景はどうしたところでここまでが全部だ。
だから。
思い出の螺子をもう一度巻き直して、私は記憶の海に潜りこむ。
その言葉を思い出せるまで、たとえ意味なんてないとしても、それでも繰り返す。
何度も、何度も、何度でも。
「――」
雨音は未だ止まない。
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