27: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:26:33.81 ID:ck9R+qDf0
初レッスンは、散々だった。声の出し方から注意を受けた。音程が不正確な上、声も出ていないと言われた。
ダンスのステップも、足がもつれて転んでしまった。それも3回。
最初から何もかもできるわけはないと思ってはいたが、こんなに何もできないのは自分でもショックだった。
そして紗代子は、ちらりとカメラに目をやる。
レッスンの間中、ずっと自分たちを撮っていたカメラだ。いや――
28: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:31:25.19 ID:ck9R+qDf0
『黒井社長は覗いていた』
29: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:34:26.93 ID:ck9R+qDf0
黒井社長「あの男……素材を見抜く目だけは確かだからな。その男が見いだした素材……興味はある。必要とあらば、わが961プロに引き抜きをしても……おかしいな」
黒井社長は首を捻る。
目の敵にしている765プロ。だがそれだけに無視も出来ない相手だ。当然に諜報活動を行い、その動勢に目を光らせている。
その765プロの、気になる男が、誰も見向きもしなかった原石を逸材と認め、自らプロデュースに赴く。
30: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:34:59.92 ID:ck9R+qDf0
そして今日も、その海外へネット経由で送られるというレッスン風景のデータを途中でハッキングしようと彼は待ち構えていた。
が、待てど暮らせどデータが765プロから海外に送信される気配はない。
黒井社長「? なぜだ? なぜデータ送信をしない……? 765プロの脆弱なプロテクトなぞ、容易に超えられるはず……」
31: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:35:45.78 ID:ck9R+qDf0
データは簡単にハックでき、すぐさま展開をしてみる。
そこには紗代子を中心……いや、むしろ紗代子のみ、レッスンの様子を撮ってあった。
冒頭から最後まで、彼はそれを眺めた。
続いてもう1度、彼は動画ファイルを再生する。
黒井社長「ノン……ノン! ノン!! ノン!!! なんだこれは、これのどこが逸材なのだ!?」
32: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:40:13.14 ID:ck9R+qDf0
紗代子「プロデューサー、今日のレッスンいつ見るのかな……」
自室でペットのハリ子の世話をしながら、ぽつりと漏らす。
忙しい身と聞いているので、もしかしたら数日……いや、週単位の時間が経過してから連絡があるかも知れない。
33: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:40:45.62 ID:ck9R+qDf0
スマホが震えていた。いや、その持つ手が震える。
昨日の自分は、今日と前の日の自分の違いに驚いていた。絶望からの希望。
今日の自分は、また落胆をしていた。レッスンでの失態が、それ以上に自分の先行きに不安を感じさせていた。
それが今、不安は霧散している。
出来ないこと、失敗したことを、こうして指摘しどうすればいいかを、この人が教えてくれるんだ。言う通りにしていけば……いいんだ。
34: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:41:37.53 ID:ck9R+qDf0
「あら……高山さん? 今日は音程がぶれないわね」
紗代子「本当ですか!? 上達……しているんですかね」
35: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:42:17.63 ID:ck9R+qDf0
「では、昨日のステップのお温習いをします。1、2、3、4! 1、2、3、4! 足はそのまま右見てタン、タン、タンで左ターン!」
紗代子「足下は見ない。視線は正面……頭の中で自分の全身をイメージして……」
36: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:43:06.96 ID:ck9R+qDf0
レッスンの後、紗代子は呼び止められる。
最上静香「あの、少しいいですか?」
37: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:45:07.15 ID:ck9R+qDf0
北沢志保「うらやましい……私たちのプロデューサー、レッスンの時にはいないし、ちゃんと見ていてくれいるのか不安で……」
瑞希「時々、見に来ておられます……ですが、私も高山さんがどんな指導を受けているのかは、気になります」
紗代子「えっとね。これにまとめてるんだけど……」
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