23: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:22:41.44 ID:ck9R+qDf0
件名は『プロデューサーより』となっており、さっそく本文を開いてみる。
『これはビジネスだ』
それが最初の一文だった。
『君は本来、合格者ではない』
24: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:24:23.81 ID:ck9R+qDf0
そうだ、明日からアイドルになる本当のレッスンが始まるんだった。
まだ自分は、アイドルとして何者でもない。ただ、アイドルになる道が、見えただけだ。
紗代子はメールに返信した。
『高山紗代子です。オーディションで私を見つけ、そして選んでくださったこと、本当にありがとうございます。私、一生懸命がんばります。どうかよろしくお願いいたします』
25: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:25:09.34 ID:ck9R+qDf0
瑞希「高山さんは……スポーツの経験は、あるのですか?」
紗代子「ううん。マネージャーはやってたんだけど、自分が身体を動かす何かをするのは初めてかな。瑞希ちゃんは?」
26: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:25:58.17 ID:ck9R+qDf0
紗代子「瑞希ちゃん、やっぱりすごいね。ステップの足運び、とっても軽やかだったよ」
瑞希「ありがとうございます……ええと、その……高山さんも……」
紗代子「あ、いいのいいの。無理に褒めようとしてくれなくても。うん……わかってる。私、全然なにも出来てなかったよね」
27: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:26:33.81 ID:ck9R+qDf0
初レッスンは、散々だった。声の出し方から注意を受けた。音程が不正確な上、声も出ていないと言われた。
ダンスのステップも、足がもつれて転んでしまった。それも3回。
最初から何もかもできるわけはないと思ってはいたが、こんなに何もできないのは自分でもショックだった。
そして紗代子は、ちらりとカメラに目をやる。
レッスンの間中、ずっと自分たちを撮っていたカメラだ。いや――
28: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:31:25.19 ID:ck9R+qDf0
『黒井社長は覗いていた』
29: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:34:26.93 ID:ck9R+qDf0
黒井社長「あの男……素材を見抜く目だけは確かだからな。その男が見いだした素材……興味はある。必要とあらば、わが961プロに引き抜きをしても……おかしいな」
黒井社長は首を捻る。
目の敵にしている765プロ。だがそれだけに無視も出来ない相手だ。当然に諜報活動を行い、その動勢に目を光らせている。
その765プロの、気になる男が、誰も見向きもしなかった原石を逸材と認め、自らプロデュースに赴く。
30: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:34:59.92 ID:ck9R+qDf0
そして今日も、その海外へネット経由で送られるというレッスン風景のデータを途中でハッキングしようと彼は待ち構えていた。
が、待てど暮らせどデータが765プロから海外に送信される気配はない。
黒井社長「? なぜだ? なぜデータ送信をしない……? 765プロの脆弱なプロテクトなぞ、容易に超えられるはず……」
31: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:35:45.78 ID:ck9R+qDf0
データは簡単にハックでき、すぐさま展開をしてみる。
そこには紗代子を中心……いや、むしろ紗代子のみ、レッスンの様子を撮ってあった。
冒頭から最後まで、彼はそれを眺めた。
続いてもう1度、彼は動画ファイルを再生する。
黒井社長「ノン……ノン! ノン!! ノン!!! なんだこれは、これのどこが逸材なのだ!?」
32: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:40:13.14 ID:ck9R+qDf0
紗代子「プロデューサー、今日のレッスンいつ見るのかな……」
自室でペットのハリ子の世話をしながら、ぽつりと漏らす。
忙しい身と聞いているので、もしかしたら数日……いや、週単位の時間が経過してから連絡があるかも知れない。
33: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2019/12/29(日) 09:40:45.62 ID:ck9R+qDf0
スマホが震えていた。いや、その持つ手が震える。
昨日の自分は、今日と前の日の自分の違いに驚いていた。絶望からの希望。
今日の自分は、また落胆をしていた。レッスンでの失態が、それ以上に自分の先行きに不安を感じさせていた。
それが今、不安は霧散している。
出来ないこと、失敗したことを、こうして指摘しどうすればいいかを、この人が教えてくれるんだ。言う通りにしていけば……いいんだ。
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