渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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36: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 21:49:23.09 ID:clFucneV0

■ 五章 在 

どれくらい、途方に暮れていたのだろうか。すっかり陽が落ちて、辺りは夜の帳が下りていた。

鼻で空気を吸うと、ずずっと何とも間抜けな音がした。

残念だが、この勝負は彼の勝ち逃げだ。

もう、それでいい。

なぜ彼が引退後も私の名声を守るどころか、評価を上げるようなことをしていたのかは終ぞわからず仕舞いだったが、わかったところで彼のことだ、どうせ大した理由ではないのだろう。

できたから、そうした。

それだけな気がする。

ため息のような、肩の荷が下りた安堵のような、どっちつかずのものを口から漏らし、再び鼻をすする。

ティッシュ、持っていただろうか。

鞄を開いて、がさごそとしていると、不意に手が伸びてきて目の前にポケットティッシュが差し出された。

「よかったら、使って」

親切な人もいるものだ。

素直に礼を言って、受け取る。

そのお礼の声が若干の涙声で恥ずかしかった。

「美人が泣いてるのが電車から見えて。それがあまりにも綺麗で、つい電車を降りちゃったんだけど、こんなことってあるもんだなぁ」

続く、あはは、という気の抜けた笑い声。

「え」

「久しぶり。元気にしてた? 今は元気なさそうだけど」

「なん、で、いるの」

「なんでも何も、さっき説明した通り、たまたまだよ」

「…………そっか」



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