渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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3: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:22:06.68 ID:clFucneV0

さて、ここからがようやく本題。

私が彼を尋ねた理由。

それは、単純に連絡がとれなかったからである。

加えて、連絡をとろうと思ったのはアイドル時代にお世話になったことのあるロックバンドの公演のチケットをもらったからで、同じく彼もあのロックバンドの人たちとは面識があるはずであるので、一緒に行く相手に丁度いいかと思ったのだ。

しかし、久々に送ったお誘いのメールは数秒と経たずに自動送信によって送り返され、該当のメールアドレスはどこにも存在していないことを告げられた。

次いでかけた電話も同じような結果だ。

彼の使用していた社用携帯は所謂ガラケーであったので、数年経てばスマートフォンに変わっているのかもしれない。

その時点まではそれくらいの認識であったのだが、いざかつての職場を尋ねてみたのが、この始末だった。

二度目となる、ため息を吐いた。

肩から提げた鞄の金具をぱちんと外して、開く。

件のチケットを取り出して、公演の日程を再確認した。

タイムリミットは残り二週間というところまで差し迫っていた。

さて、どうしたものか。

強行的な手段はいくつか思い付くけれど、そこまでするのもなんだか変な話、というよりもあまり気が進まない。

なぜかと言うと、悔しいからだ。

向こうは私の携帯電話番号もメールアドレスも知っているはずで、退職したならしたで連絡を寄越すのが筋というものだろう。

というか、私ならば、そうするし、私はそうして欲しい。

欲しかった。

アイドルを辞したあとも個人的な付き合いとして何度か食事もしたし、近況報告のような電話やメールだってあった。

彼のことは少し年齢の離れた友人のように思っていた。

それだけに、今回のことは裏切りに感じてしまう。

もちろん、私も私であることは重々承知の上で。

少なくともひと月に数度は来ていた彼からの連絡がぱたりと途絶えた時点で私も何かを察するべきであったし、すぐにあのプロダクションに確認をしに行くべきだったのだろうと思う。

しかし、しかしである。

このような縁の切り方はあんまりではないだろうか。

そう思わずにはいられない。

自分の抱いているこの感情が怒りなのか、悲しみなのかは判別がつかないけれども、その他に悔しいという思いが含まれていることは断定できる。

そう。

私は悔しいのである。

あれだけ仲が良かった相手に、相棒とまで呼んだ相手に、何年もの間二人三脚で仕事をしていた相手に、一方的に縁を切られたことが。

なんとなく、頭の中の整理がついて、息を吐き出す。

今度のは、ため息ではなかった。

プロデューサーは、あの男は、忘れている。

自分の担当していたアイドルがどれだけ負けず嫌いで、諦めが悪いかを。



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