渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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2: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:19:54.57 ID:clFucneV0

受付を後にして、そのまま建物を出る。

訪れた芸能プロダクションの敷地からしばらく離れた後で、すぅと息を吸い込み鬱々とした気持ちを最大限乗せて大きく吐き出した。

ため息にしてはやや盛大なそれを吐き終わって、空を見上げる。

やわらかそうな雲がひとつ、ふたつ浮かんでいるほかは水色に澄み渡り、太陽は暖かな日差しを届けている。

手がかりが何もなくなってしまったなぁ。

目的の人物に独力で会うための手がかりが何一つ残されていないことに気付いて、項垂れる。

さて、どうしたものかなぁ。

思考を巡らせるも、当然だが良い案は浮かんでくる気配はない。


実は私は、先程の芸能プロダクションの所属アイドルとして契約をしていたことが、ある。

もちろん所属していた期間は短い(芸能人の人々が平均してどれくらい芸能界で活動するのか、というのは定かではないが、きっと私の所属していた期間というのは短い方なのだろうと思う)けれど、確かに私はほんの二、三年前まであの芸能プロダクションの所属アイドルであった。

そして、今日私があの芸能プロダクションを訪れたのは、とある人物に会うためだった。

その人物とは、かつての私の相棒とも呼べる存在。私を担当していたプロデューサーだ。

自称するのも変な話であるが、彼と私の仲と言えばそれはもう以心伝心の領域にあったと言ってもいいくらいで、お互いがお互いに絶対的な信頼を寄せていた。

そんな彼に支えられながら、私は華々しくデビューを果たし、その後も数多のライバルたちと切磋琢磨しつつトップアイドルへの道を駆け上ったものだ。

きっと名前を聞けば誰もが分かるようなタイトルもいくつか手にしてきたし、アイドルとしての私はそこそこに成功していたはずだ。

なんていう、栄華の絶頂とでも言えた時期に、私は引退を宣言しステージを降りた。

それがアイドルとしての私。

アイドル渋谷凛の幕引きだった。

私があの芸能プロダクションを去る日の、担当プロデューサーの泣き顔は今も記憶に新しく、ぼろぼろと涙をこぼし「寂しくなる」と小さく呟いた彼の言葉は、まだ、残響している。



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