渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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4: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:24:03.32 ID:clFucneV0



決意が固まったあとの私の行動は迅速だった。

自宅へと戻ったあと、まず行ったのは母にしばらく修行を中断させて欲しいと頼むことだった。

修業とは、家業である花屋の手伝いのことで、私は半年ほど前からより実践的な手ほどきを両親に受けている。

仕入れのこと。競りでの見極め方。経営のこと。父と母が花屋として培ってきた技術と知識の全てを吸収するべく、修行と称してこの半年間取り組んできたのである。

それを中断させて欲しい、と私が言ったとき、母は一瞬驚いたような顔をして「……案外、早かったわねぇ」と感慨深そうに呟いたので、慌てて訂正をした。

きっと母は、私が独立する気だと思ったのだろう。

隠すことでもないか、と正直に理由を話すと母はこれでもかというくらい大声で笑い、目に涙を浮かべながら「いいわね。それ」と言った。

そのついでに「うちの自慢の娘を袖にするなんて、良い度胸してるわ」とからかってくるのは、無視で返す。

そうして、しばしの間の自由を手にした私なのであった。

自室の壁に貼ってあるカレンダーに、赤いペンで丸をつける。

丸をつけた日は、招待されているライブの前日だ。

それは、自分で自分に課したタイムリミットだった。

この日までに、私がかつての担当プロデューサーを見つけることができなければ私の負け。

あまりに一方的な勝負であり、二週間以内にあの男に会うことができたとして、それが何にもならないことはわかっている。

関係を断った相手と再開したところで迷惑なだけだろう。

なんていう思いが浮かばないではなかったけれど、最低限理由を話してから離れて欲しい。

私を突き動かすのはそんな子供のわがままじみた衝動だった。

といった葛藤の末に決め、自分に課したのが先程のタイムリミットで、さらにもう一つルールを課すことにする。

私だけの力で再会すること。

かつての同僚アイドルやプロダクションの社長に頼めばきっと、彼の足取りは労せず掴めるであろうし、連絡先も容易に手に入ることだろう。

けれども彼は私に退職後の足取りを連絡しなかったわけで、私と会いたくない、もしくは会うことが憚られる理由があるのではないか。

つまり彼との再会を望むことは迷惑でしかない可能性が高い。

故に、タイムリミットとルールを設けた。

ここまでが建前。

本音は、私にもできないわけがないと思ったのである。

あの男は、この人だらけの都市で偶然私を見つけ、スカウトしたのだ。

彼にできて私にできないはずがない。そういう、根拠のない自信があった。



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