26: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 21:33:50.96 ID:clFucneV0
「凛ちゃん、ですよね?」
「みんなその反応、するんですね」
「みんな? お姉ちゃんたちにも会ったの?」
「いや、受付で。入館証をもらうときに」
「あー。お姉ちゃんたち今日はいないから、きっと残念がると思うなぁ」
「よろしく伝えてください」
「うん。それで? 今日はどんな用事?」
「ああ、ええと。特に用事と言うほどではないというか、たまたま近くに来たので、軽くご挨拶をと思って。それで受付で慶さんがいる、って」
「えー、じゃあわたしにわざわざ挨拶しに来てくれたの。嬉しいなぁ」
「ふふ、でもお邪魔しちゃったみたいですみません。すぐお暇しますね」
「邪魔なんてそんな。……あ」
「?」
「じゃあ、ちょっと手伝ってもらっちゃおうかな」
「手伝う?」
首をかしげる私をよそに、慶さんは「凛ちゃん、足のサイズ変わったりしてないよね? ――センチならダンスシューズの用意があるから」と言う。
私の靴のサイズなんかを数年経っても覚えてもらえていることにびっくりしつつも、勢いに押し切られ私はただ「はい」とだけ返事をしてしまう。
私の返事を受けて、慶さんは「じゃあこっちに」と隣の部屋に私を引っ張っていく。
そこはどうやらトレーナーの人たちの私物がある部屋のようで、靴棚にはダンスシューズがいくつか並んでいた。
慶さんはその中から一つを取り出して「履いてみて」と歯を見せる。
促されるままに足を通せば、ぴったりで、驚くほど足に馴染んだ。
ぎゅっと靴紐を結んで、立ち上がる。
右足を上げて靴裏を掌でなぞり、次いで左足も同じようにする。
そして、強く床へと打ち付けて、甲高い音を鳴らした。
慣れた、それでいて久しぶりに行うその一連の動作は、なんだか感慨深い。
足にぴったりとくっついて、同化しているような軽やかな履き心地、長らく履いていなかったスポーツ用のシューズの感触に、心を躍らせている私がいた。
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