渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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25: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 21:33:05.22 ID:clFucneV0

来客用のスリッパを履いて、それをぺたぺたと鳴らしながらレッスンスタジオの廊下を進む。

数年経ったとは言えど、慣れ親しんだ施設であるため、迷わずに歩き回ることができた。

なんとなく、慶さんがいるであろう場所に見当をつけて来てみれば、丁度レッスンの真っ最中であったようで、廊下にはスタジオの床とダンスシューズが擦れて鳴る甲高い音と、音楽が響いていた。

音の方へと耳を澄ませば、聞こえてきている音楽は私のよく知るものだった。

というか、私の曲だった。

少しばかりの気恥しさを覚えながら、音が漏れているレッスンルームへと忍び寄り、中の様子を窺う。

慶さんと指導されている子は二人、どちらも知らない子だったが、目的の慶さんは見つけられた。

レッスンを邪魔するわけにもいかないし、部外者が入っていくのもあまりよくないだろう。

そう思って、踵を返そうとしたところ、その瞬間、ルーム内で指示を飛ばしていた慶さんの視線がこちらへ向いた。

ばっちり私と慶さんの視線が交差する。

逃げ帰る、わけにはいかないだろうか。

いかないだろうな。

観念して、とりあえず曲が鳴り止むのを待った。

私の曲を、知らない子が踊っている。

なんとも不思議な光景だ。

ああ、そうそう。

そこのステップ難しいよね。

私もめちゃくちゃ怒られた。

なんて、指導されている子たちに共感しながらレッスン風景を眺め、やがて曲が止まる。

ルーム内の慶さんははきはきと通る声で「汗拭いて、給水。呼吸を整えたら再開します」と言って、その場を離れ、真っすぐこちらへ向かってきた。

がちゃり、とルームのドアが開いて慶さんが出てくる。



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