渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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24: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 21:28:48.20 ID:clFucneV0



お会計を済ませて喫茶店を出た私は「やるぞ」という気持ちに満ち溢れていた。

提供されたガトーショコラは冠された濃厚の二文字に違わぬ甘さで、それでいてしつこさを感じさせない珠玉の一品であったことは、今は関係がないので置いておく。

今日訪れる場所はもう決まっていた。

それは、かつて通っていたレッスンスタジオだ。

もちろん、関係者でなくては入ることはできないし、怪しい動きをしていては警備員の人に目を付けられるか、最悪通報されてしまうのだが、そこは顔パスでなんとかなるのではないか、などと楽観的に考えていた。

その予想は見事的中した。

レッスンスタジオの正面をそのまますたすたと通り、受付に顔を出せば、そこには見知った顔の職員の人がいてくれたのだ。

「えっ、えっ、渋谷凛……さんですよね?」

「はい。お久しぶりです。お元気そうで安心しました。……っていうか、昔みたいに凛ちゃんって呼んでくれていいんですよ?」

「もう三年くらいになるかしら? 変わらないわねー。相変わらずかわいいわ」

「あはは。ちょっと近くを通ったので挨拶でも、って思ったんですけど、今日って誰か私の知ってる人……いたりしますか?」

「あら、そうなの。てっきり芸能界に復帰するのかな? なんて思っちゃった」

「それはちょっと考えてない、です。期待を裏切っちゃって申し訳ないんですけど」

「あ、気を悪くされたらごめんなさいね。言ってみただけだから。それで、えっと凛ちゃんの知ってる人だと、そうね。トレーナーさんいるわよ。青木さん」

「どの青木さんですか?」

「今日は慶ちゃんが見てるわ。慶ちゃん、すごいのよ? もうお姉さんたち顔負けで」

「じゃあ……ちょっと挨拶していきたいな。中、入っても大丈夫ですか?」

「ええ、もちろん。あ、でも一応入館証を首から提げてね」

「ありがとうございます」

「帰るときはまた声をかけてね」

「はい。また」

一礼して、そのままレッスンスタジオの中を進んでいく。

トレーナーの青木さんと言えば、私と時を同じくしてアイドルをやっていた子ならば知らない者はいないくらいの存在で、四姉妹で私の所属していた事務所のアイドルたちのレッスンを一手に引き受けていた超人たちである。

慶さんはその四姉妹の四女であり、自身のことをルーキートレーナーと称して明るく接してくれるなど、その物腰の柔らかさとしても、年齢が近いという意味でもトレーナーさんたちの中では一番話しやすかった人だ。

そんな彼女が今ではお姉さんたち顔負けと評されるのだから時の流れというのはすごいものだ、と改めて思う。



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