渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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22: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 21:24:59.24 ID:clFucneV0

「では、ここまでは渋谷さんがうちに所属してくれた場合の話をさせていただきましたので」

「……まだあるんですか?」

「僕の勝負は、ここからです」

「?」

「渋谷さんを落とさないといけませんから」

言って、男はおどけて笑んで見せるが、これまでに見せた笑みとは打って変わって、笑顔の奥から真剣さが覗いていて、私まで何だか気が引き締まってしまう。

「渋谷さん、ちなみに何年生ですか?」

「一年生、ですけど」

「というと、まだ入学したばかりなんですね。大人びてらっしゃるから、てっきり三年生、少なくとも二年生くらいかと」

「……」

「ああ、ええと。三年生だと受験の関係で、いろいろとこちらとしてもお願いの仕方を変えなければいけないし、二年生だと現在部活に入ってらしたら……とかそういう、それだけの話です。他意はありません」

「……それで?」

「部活はもうお決まりに?」

「……まだ、体験入部期間中なので」

「それは素敵です。今日、下校されていたところを見るに、まだ入部する部活などは決めかねてらっしゃるんですよね」

この程度の会話から、ぴたりと私の状況を当てられてしまった。

しかし、驚きを表情や声に出しては相手の思うつぼだと考えて、無言で通す。

「じゃあ、体験入部してみませんか。アイドル」

想像だにしない、言葉が飛んできた。

「体験入部?」

「ええ。契約とかそういうまどろっこしいのは置いといて、とりあえずレッスンを受けてもらって、合いそうであれば僕の担当アイドルになってもらえたら嬉しいな、なんて」

「……そんなのでいいの?」

思わず、素が出てしまうくらい、驚きだった。

「はい。そんなのでいいんです。それで、僕のこと信用できそうだな、と思ってもらえて、アイドルも続けていけそうだと思ってもらえたら、契約しましょう。その後のことは、二人で考えましょう。渋谷さんの親御さんの説得とか」

なんだか良い様に口車に乗せられてしまっている気がしないでもなかったけれど、心のどこかでまぁいいかと思っている自分がいる。

そして、私はこの男のもとでアイドルになるのだろうな、なんて漠然と感じているのだった。



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