渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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21: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 21:23:49.40 ID:clFucneV0

「渋谷さん、下のお名前はなんて言うんですか?」

「……凛」

「渋谷さんにぴったりな、綺麗なお名前ですね」

「……別に、アンタに褒められても嬉しくないよ」

「手厳しいなぁ。あ、ほら、来ましたよ。渋谷さんお待ちかねのガトーショコラ」

お待ちかねじゃないし、私が頼んだわけじゃないんだけど。

そんな抗議の声は男の耳には届かなかったようで、運ばれてきたアイスコーヒーに口をつけて「おいしい!」などと言っている。

それも、ムカつく。

「ガトーショコラ、めちゃくちゃおいしいですよ。これ」

一向に本題に入る素振りはなく、目の前でガトーショコラを頬張る男に遠慮をするのも、なんだかもう馬鹿らしい。

フォークを手に取って「いただきます」と小さく呟いて、ガトーショコラを口へと運ぶ。

確かに、おいしい。

けど、それがなんだと言うのだ。

こんなものでは騙されはしないから、と軽く睨んでやる。

男はそんな私の視線を気にすることなくニコニコを崩さないので、私も意地を張るのに疲れて、ひとまずガトーショコラに集中することにした。

そんなふうにして私は食べ終えて、フォークを置く。

それを見て、男も「さて」と言った。

ようやく本題に入りそうだ。

「小腹も満ちたことですし、順番にご説明、させていただいてもいいですか?」

さも私を待っていました、というような口ぶりに腹が立ったが、いちいち突っ込んでいては日が暮れてしまうので、大人しく無視する。

「じゃあ、まず簡単にうちの事務所についてと、もし仮に渋谷さんが僕のスカウトを受けてくれた場合の条件などその辺り、ご説明させていただきますね」

ぱちん、とスイッチが入ったように男は業務モードに移行して、てきぱきと、それでいて私にでも理解できるくらいわかりやすく、説明をしていった。

とりあえずは、この男が先ほど語ったそれなりに優秀である、というのは信じてもよさそうだった。

「……と、ここまででご不明点はございますか?」

「特にない……です」

自然と私も襟を正して聞いてしまい、冷たくあしらう姿勢は取り辛くなっていた。



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