渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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20: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 21:22:26.12 ID:clFucneV0



男の「それでは、お見せしたい書類もありますので、立ち話もなんですし」という言葉に素直に従い、私は駅からほど近い喫茶店にやってきていた。

通された席に着いて、お冷とおしぼりが運ばれてきたあとで男はメニューを広げる。

早く本題に入って欲しいものだが、喫茶店に入った手前何か注文しなくてはいけないのは私でも理解できる。

「何頼みます? 好きなもの頼んでいいですよ。助けていただいたお礼もありますから」

私に向けて開かれたメニューを左から右へとざっと眺め「アイスコーヒー」とだけ返した。

私の返事を聞いて、男は店員さんを呼び「アイスコーヒーを二つ」と注文をした。

「あと」

あと?

「ガトーショコラを二つ。以上で」

注文を終え、店員さんが下がって行ったあとで、男は私の方を見て、にっこりと笑む。

「どうですか。当たり、ですよね?」

「当たり、って?」

「ガトーショコラ、見てましたよね」

ぎくり、と音が聞こえた気がした。

確かに、メニューを向けられたときに、ガトーショコラの前で一瞬視線が止まったのは確かだった。

「まだまだ若造に見えるでしょうけど、観察眼には自信ありますし、それなりに優秀なんですよ? 入社したときに、師匠にみっちり鍛えられましたから」

「でも、私が食べたいと思ってるとは限らないでしょ? ただ視線が止まっただけかもしれないし」

「それは、そうですけど。でも、それ以外にも条件、そこそこ揃ってましたし」

「条件?」

「前回お会いした時も制服を着てらしたので、高校生なのはわかってましたし、一般的な高校の下校時間と今の時刻は一致します。そこから逆算したら、どこかへ寄り道してきた、ということはなさそうだ、と察しがつきますよね」

「まぁ、うん」

「であれば、簡単です。この時間は、お腹空くんですよ。おやつ、食べたくなって当然です」

男はいっそうニコニコを強めて、私を見据える。

ムカつくけれど、すべて当たりだった。



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