10: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:35:58.92 ID:clFucneV0
やがて到着したのは、駅に程近い小さな公園だった。
肩で息をしながらベンチに腰掛ける男性に続き、私もその隣へ少し間を空けて座る。
「いやー、走った走った。ここまで来れば大丈夫でしょう」
彼は手に持っていた鞄を開いて、その中から真っ黒な長方形を取り出す。
公園の照明を鈍く反射しているのを見るに、革製の何かだ。
初めは小銭入れかと思ったが、彼が一枚の紙を引き出すのを見て、名刺入れだとわかる。
そして、彼は引き出した一枚の紙をそのまま私に差し出した。
「一応、自己紹介? というかなんというか。怪しい者ではないですよーっていう、その、あれです」
語彙力低めに渡された名刺を受け取り、手元に視線を落とす。
そこには芸能プロダクションの名前と、部署と役所と、おそらく目の前の男の氏名やらメールアドレスやらが記されていた。
「それにしても、だ。勇気ありますね……えっと」
「あっ、渋谷です」
「渋谷さん。見たところ、高校生でしょう?」
「はい。……その、無茶、でしたよね」
「うん。結構ね。僕が君のご両親なら怒るかなぁ。でも、確かに君の勇気で助かった人はいたわけだし、動かされた人間もいたんだから、僕が何か言う資格はないです」
「動かされた……?」
「僕のこと。だって、いつもだったら、ほら、気の毒だなぁとは思うけれど、首を突っ込もうとは思わないですから」
「あー」
「ただし、ああいうのはお勧めしないです。ホントにね。やめた方がいいと思います。危ないから」
「…………はい」
怒られているわけではないのに、彼の声も怒っている調子ですらないのに、すごくすごく怒られている感じがして、どうも居心地が悪い。
同時に、この人がいなければ、私まで危険な目に遭っていたかもしれないと思うと、途端に怖いことをしてしまったのだ、という実感がわいてくる。
「お説教みたいな真似してごめんなさいね。見ず知らずのオジサン相手に説教されても楽しくないですよね」
とてもオジサンを自称するような年齢には見えないが、私のような年齢の者からしたら社会人の男性は総じてオジサンと称される、との配慮からだろうか。
それとも見た目以上に実年齢は老けているのかもしれない。
なんて、どうでもいい考えが浮かび始めかけているのを、無理やり中断する。そんなことを気にするより、言うことがあるはずだった。
「いや、えっと、助けてくれてありがとうございました」
「あー。お礼は言わなくていいですよ。こっちもこっちで、自分のために渋谷さんに助け船を出したようなものですから」
「え」
言っている意味が分からず、首を傾げる。
「名刺、見てくれました?」
「はい」
「俺ね、芸能プロダクションでプロデューサー、なんてお仕事をやってるんですけれども、その、ただいま絶賛担当する子、つまりはプロデュースするアイドルを探してる途中でして」
言われて、再び渡された名刺を見る。
プロデューサー、という仕事はなんとなく聞いたことはあれど、具体的にどんなお仕事をしているのかはぴんと来なくて「はぁ」と返す以外できなかった。
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