11: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:38:52.85 ID:clFucneV0
「それで、ここからが本題。渋谷さん、アイドルになりませんか?」
「えっ。……えっ?」
「冗談とか、そういうのではないです。本気で渋谷さんをスカウトしています」
「……私を、アイドルに?」
「はい。臆することなく叫ぶ声に耳を奪われ、凛とした姿に目を奪われました。端的に言えば、一目惚れです。でも、本気で渋谷さんには才能がある
と思う。だから、アイドルになりませんか」
「……えー、っと。その……え、っと。……ごめんなさい」
「…………だめですか」
「……その、はい。ちょっと、そういうのは考えてないし、向いてない、と思うので」
「………………そうですかー」
彼はひどく肩を落として、ため息を吐く。
「だめなら、仕方ないですね。お話し聞いていただいてありがとうございました。また、気が変わったら名刺の電話番号にお気軽に電話してくださいね」
「はい、その、すみません」
「こちらこそご無理を言って申し訳ないです」
案外、諦めが良いのだな、と思った。
こういうのはひたすら食い下がって来るものだと思っていたので、少し拍子抜けしてしまう。
もちろん、食い下がられても困るのだが。
「でもでも、諦めないので! また街で見かけたらアプローチしてもいいですか?」
前言撤回。
めちゃくちゃ諦めが悪そうだった。
肯定も否定も返さず、軽く「あはは」という愛想笑いで以て封殺して、ベンチから立ち上がる。
「それじゃあ、えっと、今日はありがとうございました」
「ううん。遅くまでこちらこそごめんなさい。暗いし、気を付けて。駅までお送りしますね」
「あ。大丈夫です。すぐそこなので」
「……言われてみれば、そうですね」
「はい。……それでは」
「ええ。じゃあまた」
また?
彼の最後の言葉が引っかかりフリーズする。
けれども、突っ込んだら相手の思う壺な気がしてならないので、流すことにした。
絶対、こいつは私のこと探し出して会いに来るのだろうな、という最悪な確信があった。
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