1: ◆Xz5sQ/W/66[sage saga]
2019/12/04(水) 22:38:53.67 ID:/r2p4Xlx0
その黒ネコは「志保君」と彼女を呼んでいた。
出会ったばかりの頃はまだ「北沢君」呼びだったのに、
ある時「北じゃわ君」とドヤ顔で舌を噛んでしまい、盛大に笑われてからはもっぱら「志保君」呼びで通していた。
対して、志保は彼の事を「プロデューサーさん」と呼んでいる。
他に「ネコタチ」「おやぶん」「毛玉」に「にゃーご」……それから「ツメツメトギトギシッポフリ」なんて変わったあだ名もあるけれど、
志保は黒ネコの役職である「プロデューサー」に「さん」をつけて、目上の者に対する敬意を何時でもしっかり払っていた。
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2: ◆Xz5sQ/W/66[sage saag]
2019/12/04(水) 22:41:46.82 ID:/r2p4Xlx0
そんな一人と一匹が過ごす冬のある日。
ご存知我らの765プロの、世間には『劇場』として知られている建物において、
3: ◆Xz5sQ/W/66[sage saag]
2019/12/04(水) 22:42:17.99 ID:/r2p4Xlx0
そもそも人間は靴を履いているし、何なら靴下だってあるが、
ネコは靴を履かない生き物だし、例えお互い素足であったとして、
4: ◆Xz5sQ/W/66[sage saag]
2019/12/04(水) 22:43:21.09 ID:/r2p4Xlx0
だから、黒ネコは廊下を歩くのが嫌いだった。
煩わしい仕事をするのも嫌いだった。
5: ◆Xz5sQ/W/66[sage saag]
2019/12/04(水) 22:45:25.82 ID:/r2p4Xlx0
「すみません、吾輩さまが飛び出してくると思わなくて。……もう少しで足を引っかけてしまいそうに」
「いや、別に、構わないよ」
6: ◆Xz5sQ/W/66[sage saag]
2019/12/04(水) 22:46:38.85 ID:/r2p4Xlx0
見かけなかったかい? と黒ネコが問う。
するとエミリーは残念そうに首を振って。
7: ◆Xz5sQ/W/66[sage saag]
2019/12/04(水) 22:47:52.59 ID:/r2p4Xlx0
黒ネコが力になれないと首を振ると、エミリーは「構いません」と言って立ち上がった。
だが……その両腕には黒ネコがしっかり抱きしめられていて、彼は狼狽えながら彼女に訊いた。
8: ◆Xz5sQ/W/66[sage saag]
2019/12/04(水) 22:49:13.84 ID:/r2p4Xlx0
――さて、そうなってくると、建物内に残った調べるべき場所は二階と地下。
一人と一匹はそのどちらにも向かえる階段へと同時に視線をやって。
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