6: ◆x8ozAX/AOWSO[saga]
2019/12/04(水) 17:26:28.11 ID:86FQdztyO
気持ち悪い程の沈黙が、部屋を包んだ。
心配そうに俺を見つめる6つの目が、俺の心を揺らし続けた。
理由の分からない不安、焦り、緊張、動悸が襲い掛かってくる。
視界が揺れて、足が震える。
「……お兄ちゃん。今日はもう、お休み、しよ?」
「うんうん、それが良いよお兄ちゃん」
「兄さん。さ、お休みしましょう?」
俺の発言なんて無かったかの様に、彼女達は幸せを続ける。
俺の発言に意味なんて無いかの様に、彼女達は自分達の幸せに戻る。
けれど、俺一人は置き去りにして。
取り残された俺は、もう息すらも苦しかった。
俺一人だけが、別の世界に放り込まれてしまったかの様な錯覚。
当たり前が当たり前でない感覚。
真偽のはっきりしない記憶が大量に流れ込んで、脳の処理が追い付かない。
そんな居心地の悪さと言葉にしようのない不安の塊が、自分の存在さえあやふやに感じさせて。
「違うっ! 俺はっ!!」
気付けば、俺は叫んで走り出していた。
「お兄ちゃんっ?!」
堪らず、俺はリビングを飛び出した。
何十メートルにも感じる廊下を駆け抜けて、玄関へ向かう。
今思えば、こんな廊下も玄関も見た事が無かった。
だから、逃げ出したかった、確かめたかった。
この家の外には、どんな景色が広がっているのか。
妹達は、誰も追い掛けてこなかった。
「はぁっ……はぁっっ……っ!」
ほんの数秒の事だっただろう。
けれど玄関に辿り着くまでに、既に俺の足は悲鳴を上げて息は上がりきり、掌は汗で埋め尽くされていた。
一瞬、振り返る。
けれど廊下には、誰も居なかった。
「外に……兎に角、外に……っ!」
こんなおかしな世界に俺一人、ずっと居ては気が狂ってしまう。
1秒でも早く!
1メートルでも遠く!
こんな世界から、逃げ出さないと……!
ガチャ
意外にも玄関の扉は、あっけなく、あっさりと、軽い力で開ける事が出来た。
暗い廊下と扉の先の明るい光のせいで、一瞬目が眩む。
けれど、俺は外に出る事が出来た。
ゆっくりと、視界を取り戻す。
これで、俺は……
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