5: ◆x8ozAX/AOWSO[saga]
2019/12/04(水) 17:25:52.21 ID:86FQdztyO
「……お兄ちゃん大丈夫? さっきから少しおかしいよ?」
「お兄ちゃん……もう一回、寝る?」
「いや……俺は……」
「兄さんはきっと疲れてるんです。そうだ、私達四人で一緒に寝るなんてどうですか?」
「あ、それ賛成! 久しぶりに皆んなで寝よっ?」
「にへへ……甜花、お昼寝の準備してくる……!」
待ってくれ。
俺がおかしいのか?
俺が間違っているのか?
おれが、おかしくなってしまったのか……?
「昨日毛布を柔軟剤で洗っといて正解だったね!」
「枕……お兄ちゃんの、腕が良い……」
「あっ、じゃあ甘奈は反対側の腕ね!」
「ふふ、甘奈ちゃんも甜花ちゃんも兄さんの事が大好きなのね」
幸せそうに笑う三人と正反対に、俺の頭と心はぐちゃぐちゃになっていた。
おかしいだろ、そんな訳ないだろ。
俺は普段、仕事に行っていただろ。
なんで三人は、そんな事なかったかの様に振る舞っているんだ。
そもそも、『此処は何処だ?』
朝起こしてくれた女性が千雪だと言う事は直ぐに分かった。
朝食を作ってくれた少女が甜花だと言う事も直ぐに分かった。
笑顔で迎えてくれた少女が甘奈だと言う事も直ぐに分かった。
三人の事を、俺は良く知っている筈だから。
だが、こんな家には見覚えが無い。
長年過ごして来たかの様に自然に過ごせたが、記憶のどこにもこんな場所の光景は無い。
寝室も、洗面所も、廊下も、階段も、リビングも。
俺の部屋の窓の外に広がる光景も、人生で一度として見た事がなかった。
「お、お兄ちゃん……どうしたの? 食べ過ぎて、お腹痛い……?」
「……俺は、こんな場所を知らない……」
「甜花ちゃんの手料理、めっちゃ美味しかったもん! 食べ過ぎちゃっても仕方ないよ」
「違う……俺は、そもそも……」
そんな筈はない。
ずっと過ごして来ていたのなら、風景を覚えていない筈がない。
あり得ない。
ずっと過ごして来ていたのなら、一緒に過ごした彼女達との思い出が無い筈がない。
なのに、無かった。
甘奈達と暮らしてきたなんて記憶は、どこにも無かった。
「お兄ちゃん、今日なんかおかしいよ」
俺が、おかしいのか?
「お兄ちゃん……大丈夫……?」
おかしいのは、この家の方じゃないのか?
「兄さん……今日はもう、休みませんか?」
おかしいのは……
「……お前たちの方が、おかしいんじゃないのか……?」
そう、呟いた。
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