55: ◆x8ozAX/AOWSO[saga]
2019/12/04(水) 18:46:36.30 ID:86FQdztyO
真っ先に思い出すのは、あの事務所の事だ。
俺にとって、あそこが全てなのだから。
俺にとって、あの事務所で彼女達と過ごす時間が全てなのだから。
俺にとって、幸せは……
「……俺は、あの場所で。みんなと幸せになりたいんだ」
283プロで、みんなと過ごす時間の事だから。
「だから、俺は行かなくちゃいけない。行きたいんだ」
また、プロデューサーとしてみんなと過ごす為に。
こうして真正面からぶつかるのは、その第一歩だ。
甘奈も、甜花も、千雪も。
誰も、口を開いてはくれなかった。
部屋に嫌な沈黙が流れる。
それでも俺は、撤回したりなんてしない。
諦めない。
きっと、分かってくれる。
最初に口を開けたのは、千雪だった。
「……そこまで言うなら……分かりました」
困った様に、それでも微笑んで。
千雪は、頷いてくれた。
「甘奈ちゃんも甜花ちゃんも、お兄ちゃんを困らせちゃダメよ?」
「うん……甜花、分かった……」
「……うん、大事な事だもんね。甘奈も全力で協力するから。お兄ちゃんの夢を叶えよう?」
三人とも、そう言ってくれた。
不安に震えていた心が喜びに溢れ、瞳から零れ落ちた。
長かった。
本当に長かった。
やっと、帰れるんだ。
ありがとう甘奈。
ありがとう甜花。
ありがとう千雪。
ありがとう、冬優子。
本当に諦めなくて良かった。
皆んなを信じて良かった。
ずっと足掻き続けて良かった。
帰れる……良かった……良かった……
「ふふ、兄さん。泣かないで下さい」
「甘奈達はいつでもお兄ちゃんの味方だからね!」
「甜花も……応援、しましゅ!」
「ありがとう……ありがとう、本当に……」
突然、視界が白に染まり始めた。
夢から覚める様な、そんな感覚だった。
「……どうやら、もう時間が無いみたいね。それじゃあ、いつまでもお待ちしておりますから」
「「「行ってらっしゃい、お兄ちゃん」」」
そうして、俺は。
俺達の世界は、光に埋まっていった。
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