46: ◆x8ozAX/AOWSO[saga]
2019/12/04(水) 18:41:54.48 ID:86FQdztyO
「…… 『忘れろ、捨てろ』、か……」
部屋に一人で戻り、俺はゴミ箱から破れたメモを拾い上げた。
『忘れろ、捨てろ』
果たして昨夜の俺は、何を思ってこんなメモを書いたのだろう。
何か怖い経験でもしたのだろうか。
忘れた方が自分の為になると思って書いたのだろうか。
忘れろと書いてあるのだから忘れた方が良い、思い出す必要の無い事なのだろう。
それでも、捨てる必要は無いだろうに。
自分の性格上、メモを捨てる時は破いて捨てる。
それを分かって書いたと言う事は……どう言う事だ?
考えてもさっぱり分からない。
……そう言えば、昨日は何をしてたんだっけ。
どうにも記憶があやふやだが、多分昨日も妹達と幸せに過ごしていただろう。
スマホに何か写真でも残ってないか。
そう思って、俺はスマホを手繰り寄せた。
画像フォルダには、見覚えのない画像が沢山入っていた。
時折妹達の写真もあるが、殆どは知らない女の子達ばかりだった。
……なんだこれ。
気付かないうちに盗撮でもしてたのだろうか。
その中で一枚、何処かで見覚えのある場所の写真を見つけた。
とある建物、その窓ガラス。
『283』と書かれた(貼られた?)、そんな写真。
俺はその風景を、何度も見た覚えがある。
夢だっただろうか。
どうにも思い出せないこの感覚は、まるで夢を思い出そうとするかの様だった。
掌で掬い上げても指の隙間から零れ落ちてゆく水の様に、記憶がばらついてゆく。
モヤがかかって、鮮明さがどんどん失われてゆく。
それでも、俺には分かった。
これはきっと忘れてはいけない事だ。
誰か知っている人はいないだろうか。
何となく、きっとトーク欄の一番上にあるって事は親しい間柄なんだろうと判断してその人に通話を掛けた。
ワンコール、ツーコール。
そして直ぐに、繋がった。
『もしもしあんた?! ねぇ何この事務所、探偵事務所だったりジャスティスなんたらだったりみんなおかしくなっちゃってるわよ!』
声を聞いて、直ぐに分かった。
もう一度トーク欄の上に表示された名前を確認するまでもない。
忘れる筈がない、忘れて良い筈がない。
忘れちゃダメなんだ……捨てちゃダメなんだ……
「……冬優子……そうだ……冬優子だ……っ!」
『えっちょっ、何泣いてんのよ気持ち悪い』
ストレイライトの黛冬優子。
彼女の声を聞いたのは、何年ぶりだっただろう。
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