32: ◆x8ozAX/AOWSO[saga]
2019/12/04(水) 18:34:08.11 ID:86FQdztyO
ガチャ
ゆっくりと、警戒しながらドアを開ける。
いや、違う。
単純に、恐怖と緊張で俺の身体がゆっくりとしか動けないだけだ。
異様な眠さと怠さは、今更になって朝食に何か混ぜられていたのでは無いかと思い始めた。
「…………千雪?」
無様なくらい、俺の喉から出た声は震えていた。
きちんと名前を呼べていたかも分からない。
頭がクラクラして、床が揺れている様な錯覚に陥る。
頬を流れる水分が汗か涙なのかの判断すらつかない。
部屋の内側からは、複雑な香りがした。
普段の千雪の香り。
名前も知らない香水かアロマの香り。
この家のものであろう材質自体の香り。
そして、噎せ返る様な。
不思議な、赤の臭い。
「ーーんーっ゛…………ん゛ーー……ん゛ん゛ーー」
「あら。まだ元気なのね、甘奈ちゃん」
「っ?! 甘奈! そこに居るのか?!」
早く部屋の中へと入りたい。
甘奈が居るのであれば、俺も行くべきだ。
なのに、身体が動かない。
酔ったような怠さと力の入らなさと、部屋の中で起きている現実に対する恐怖。
「……っ! うぉぉぉぉっ!!」
俺が怖がっててどうする。
俺がこんな場所で立ち止まってどうする。
全体重をドアに掛け、文字通り倒れ込む様に千雪の部屋へと入る。
そして、分かってしまった。
この生臭い、赤い臭いの正体を。
俺は、見てしまった。
甘奈は、居た。
部屋の真ん中に、下着姿で縛られて。
口にはタオルが巻かれ、殆ど喋れなくなっていて。
焦点の定まらない虚な瞳は何処を見ているのか、それとも何も見えていないのか。
そして、そして……
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