29: ◆x8ozAX/AOWSO[saga]
2019/12/04(水) 18:32:17.47 ID:86FQdztyO
「ううん。だから…… 出ようよ、この家。そんなお兄ちゃんに、悲しい顔はして欲しくないから」
「っ?!」
甘奈は、笑顔だった。
何かが吹っ切れた様な、そんな笑顔で。
「……甘奈はさ、何となくしか分からないんだよね。ただ『お兄ちゃんを家から出しちゃダメ』って事しか」
「……そう、だったんだな」
「ずっと一緒に生活して来た筈なのに、なんだか今日は色々ハッキリしないんだよ。ただ兎に角、『お兄ちゃんを外に出しちゃダメ』って事だけはハッキリ覚えてる」
俺と同じだ。
思い出す前の俺も、そんな感じだった。
「……出よう、お兄ちゃん。甘奈も全力で協力するから。お兄ちゃんの夢を叶えよう?」
そう、甘奈が言ってくれた。
こんなに心強い、嬉しい事は無い。
一方的に誰かに支えて貰える感覚は久しぶりだ。
それも甘奈となれば安心感しかなかった。
「玄関からは出られないの?」
「ダメだった。何度やってもリビングに戻る」
それすら甘奈は知らなかったのか。
「窓とかは?」
「後で試す……が、何となく無理な気がするんだよな」
「他の人に連絡は?」
「試したが……まぁ、直接的な解決には繋がりそうもなかった」
事務所に隕石が落ちそうだったらしい、なんて言っても信じて貰えないだろう。
何と言うか、それを普通に受け入れていた自分が恐ろしい。
「うーん……千雪お姉ちゃんなら何か分かるかな?」
「やめろっ!!!!」
「うぁぅっ?!」
恐怖心から、つい叫んでしまった。
千雪だけはダメだ。
彼女がそれを知れば絶対に妨害してくる。
それを俺はよく知っているから。
「……驚かせて悪い。千雪にはまだ内緒にしておいてくれ、家を出る時になったら必ず話すから」
「真正面から向き合えば、きっと分かってくれると思うな〜。だってほら、甘奈達ってちゃんと分かり合えたでしょ?」
「……まぁ、少し考えさせてくれ」
「オッケー、甘奈は窓とか試してみるねっ?」
そう言って、甘奈は部屋を飛び出していった。
これはきっと、大きな一歩だ。
この狂った世界から逃げ出す為の一歩に違いない。
今まで俺はずっと三人とも敵だと思っていたが、そうでも無いらしい。
それが分かって、尚且つ一人味方に出来たのはとても大きな成果だった。
それを報告する為にも、冬優子に連絡を入れる。
『もしもしあんた?! ねぇ何この事務所、探偵事務所だったりジャスティスなんたらだったりみんなおかしくなっちゃってるわよ!』
「冬優子の言った通り、甘奈が協力してくれる事になったんだ! アドバイスしてくれてありがとな!」
『……………………は?』
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