白雪千夜「足りすぎている」
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44:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 22:42:24.27 ID:QXbKSZYO0
 アーニャさんが指差すものに、私が答える。
 彼女が笑う。
 アーニャさんから、自分にも聞いてみてほしいと言われ、私が適当な星を指差す。
 彼女が誤った回答をし、私がそれを正すと、彼女はキラキラとはしゃいで、また笑う。

 そんなことを、しばらく繰り返していると、時間が過ぎるのはあっという間だった。


「チヨも、キレイなもの、好きですね?」

 目に見える範囲の星々を一通りさらったのち、アーニャさんが微笑みかけた。
 彼女の碧い瞳にも小さな光がいくつも瞬いていて、見つめていると吸い込まれそうになる。

「美術館には、よく行きます」
「オー、ムゥズィエーイ……チヨの、良いものを見る目、それで育ったですか?」
「というより、無いものねだり、と言った方が正しいかと思います」
「シトー?」

 届かないからこそ価値がある、などと詩人を気取るつもりは無いが、確かに星は綺麗だ。
 過去から今に至るまで、想いを馳せた人が絶えなかったのも頷ける。

「美しいものには、それだけで価値があります。
 私自身、無価値であるが故に、そのような強さを感じるものに憧れるのです」

「チヨも、キレイですよ」

 アーニャさんが私の手を握る。
 日が落ちると少し肌寒い、中途半端な季節。
 その中にあって、彼女の手は、まるで細氷のように儚げな指をしているのに、羽毛で包まれたかのように温かい。

「チヨは、どうして昨日のレッスン、アーニャに負けましたか?」



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