白雪千夜「足りすぎている」
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265:名無しNIPPER[saga]
2019/11/24(日) 00:49:51.39 ID:Hn+oLRjQ0
「お嬢様っ!」

 舞台袖に駆け込むと、お嬢様は美城常務の腕に抱かれていた。

 まるで糸の切れた人形のように、その手足には力が入っておらず、目の焦点も合っていない。息も絶え絶えといった様子だ。
 皆がそれを、心配そうに見つめている。

 そんな彼女を支える常務を見て、この人が玲音さんの誘いを断った理由を理解した。

「ちよちゃん……?」

「素晴らしい……素晴らしい、ステージでした、本当に……」

 やはり、ご無理をなされていたのか。
 直後に自分の出番が待っているのも忘れ、目に熱いものがこみ上げてくる。

「まだ、ちとせさん、でしょ……えへへ……」


 私に勝ちたいなどと、的外れも良いところだ。
 この人は、本当に――。

 そのままお嬢様は目を閉じた。
 常務が近くのパイプ椅子まで運び、彼女をそこに座らせる。

「この子のことなら、心配は要らない」



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