236:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 22:37:56.50 ID:1/ZkFkMM0
常務は答えない。
腕を組み、黙って窓の方を向いたままだ。
「お嬢様は、お願いごとを断られたことが無いと、よく仰います。
人を魅了する天分は、アイドルとして申し分の無い能力と言えるかと思いますが、その反面」
言葉を切ると、常務が睨むような視線だけを私に差し向けるのが感じ取れた。
「ご自身で勝ち取る術を持たなかった。
幼少の頃より虚弱なお身体だったあの人は、ご自身の行いがその思い通りにいかないことに慣れていました」
両手の中にあるカップを見つめた。
こんなに苦いコーヒーは、ルーマニアにいた頃、お嬢様が間違って淹れた時以来だ。
「ですが今では、私もそうですが、夢中になれるものを見つけることができました。
それは、諦めることに慣れていたお嬢様にも、ご自身の殻を破る機会を得たということだと思います。
私を目標とすることが間違いだとするあなたのお話には、私も同感です。
ただ、その気づきを得るきっかけが、あの人にとっては私だった……
たとえ盲信であろうと、あの人の情熱の火を絶やすことなく、その日まで導いてくれたこと、感謝しています」
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