白雪千夜「足りすぎている」
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233:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 22:21:37.59 ID:1/ZkFkMM0
「何も、無かったのですか?」
「正確に言えば、彼女に支払うべきだったギャラを、芸能分野の卵を育成する基金に寄付してくれと言われた。
 彼女は、自分がノーギャラだと世間に知られた時の業界に与えるハレーションも、よく理解していたのだろう」

 映画か小説、あるいはジョークにでもあるような話だ。
 本当にそんなことを言う人がいるなんて、とてもじゃないが信じられない。

「彼女は自分の地位や名声に少しも興味を持っていない。
 頭の中にあるのは、観客と楽しむことだけ。
 そんな人間がトップとして君臨する現実は、私にとって自身のアイドル人生を粉々に否定されるに等しかった」


「……アイドル人生?」

 聞き返すと、常務はこちらに目を合わせないまま、小さく舌を打った。
 “アイドル観”の聞き間違いかと思ったが、どうやら間違いではなかったらしい。


「私も、初めから捻くれているわけではなかったさ」



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