白雪千夜「足りすぎている」
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182:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 17:38:19.90 ID:1/ZkFkMM0
「お嬢様……申し訳ございません」


 私は、膝の上に置いた手を握りしめ、俯いた。

「お気遣いいただきながら、やはり……これは、私がいただくわけにはいきません」

「チヨ……?」


「うん、知ってるよ」

 お嬢様のあっさりした声が、妙に白々しくリビングに響いて消える。

「千夜ちゃんは私の従者だから、でしょう?」
「そうです」


 どういう風の吹き回しかは知らないが、お嬢様は今日、ご自身の誕生日でありながら、ホストに徹している。
 お嬢様が振る舞う手料理を――施しを受けるのは、ゲストだ。

 だが、私はゲストではない。
 従者が主のゲストとして施しを受けることは許されない。
 もしそれを許容してしまったら、その瞬間、黒埼家の従者たる私のアイデンティティは崩れる。

 それを知っていながら、お嬢様はなぜ――。

「なぜお嬢様は……私にこのようなことをなさるのですか……」

 よりにもよって、私の存在意義を奪うようなことを、嬉々として行うなんて。
 気まぐれにしても、これはあんまりだ。



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