1:名無しNIPPER[saga]
2019/11/10(日) 22:16:10.20 ID:PR8wYl2Go
あずにゃんへ 今度の夏祭り、久しぶりに軽音部の皆で行くって約束でしたが、何でも、澪ちゃんがどうしてもりっちゃんと二人で行きたいと言ってるらしくて、集合は三人になりました。二人は今おアツいから、許してあげてね。
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2:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:17:43.63 ID:PR8wYl2Go
昨日唯先輩から送られてきた一通のメール。その最下に書かれていた待ち合わせ場所を三度反芻して、私は家を出ました。今日がその夏祭り当日。先輩方が卒業して以来、初めての再会です。夏休みの間はずっとこっちにいてくれるからいつでも会えるとはいえ、それでも再開初日というのは嬉しいような気恥ずかしいような、不思議な気分です。
3:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:18:32.20 ID:PR8wYl2Go
夕方六時のチャイムが鳴る頃には、青空に赤い影がぼんやり滲んで、じいじいと耳をつんざくような蝉時雨も、まるで川の流れのように滑らかな音色になる、そんな時期になりました。
風も僅かながらそよそよと穏やかに流れていて、心地良い暑さが夏の終わりを、ぼんやりと連想させました。
4:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:19:42.62 ID:PR8wYl2Go
川を越え信号を渡り歩くことおよそ十分。曲がり角を抜けた所、遠目に先輩たちの姿を確かめることが出来ました。
「あっ、おーい! あずにゃーん!」そう私が気付くや否や、唯先輩も私に気付いたらしく、こちらを向いて、手を広げながら駆け寄ってきました。
あぁ、懐かしいなぁ。唯先輩はいつも私と会えば、真っ先に駆け寄って抱き着いてきていました。しかし、今日の問屋は高めの為替。何故なら唯先輩と私の距離は、遠目と言うほどに離れているわけで……
5:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:20:51.68 ID:PR8wYl2Go
「これだけ離れてて、かわせないわけがないです!」
とはいえ、今身体をズラすにはいささかタイミングが早すぎて、もうちょっと近づかせないことには、唯先輩が対応できてしまいます。もうちょっと近づいてもらわないと。もうちょっと、もうちょっと……
「梓ちゃん、久しぶりね〜」
「わっ!?」
突然背後から話しかけられ、思わず後ろを振り向きました。声の通り、そこにはムギ先輩がいました。しかし、一体いつから背後に……?
6:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:22:30.92 ID:PR8wYl2Go
「もう、ビックリしましたよムギ先輩」
「あらあら、ごめんなさい」
「……あの、どうして少し距離を置くんですか?」
「だってここがベストスポットだもの」
「ベスト……?」
7:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:25:46.08 ID:PR8wYl2Go
「半年ぶりのあずにゃん分だ〜! お肌のモチモチもあったかさも変わんないねえ」
「や、やめてください唯先輩ぃ!」
そうやって言う唯先輩も、やっぱり半年前と何も変わらない。でも半年の月日が流れていたことは確かなだけに、すっかり免疫の無くなった私の心臓は、途端にばくばくと早鐘を打ちだしまして……
「ム、ムギ先輩、助けてくださ」
「半年ぶりの唯梓分……! あぁ、どんどん癒されていくわ!」
8:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:27:03.66 ID:PR8wYl2Go
「もう。頬ずりまでしたんですから、人前でくっつくのはダメですよ」
「えぇ〜。あずにゃんは手厳しいなぁ……」
唯先輩がそう不服そうに呟くのを、隣でムギ先輩が慰めていました。
……後ろを歩いているお陰で、離れた後でも足が震えてるのはバレてない、と思いたいです。
9:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:27:51.44 ID:PR8wYl2Go
「それにしても、あずにゃんが何も変わってなくて良かったよ〜。反応は前より可愛くなってたけど」
「う、うるさいです。……でも、唯先輩もムギ先輩も、お変わりないようで良かったです」
「あ、でもねあずにゃん。ムギちゃんは大学生になってからたくさんバイト始めたんだよ」
「え、そうなんですか!?」
ムギ先輩を見ると、そうなのよ〜とこくんと頷き、
10:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:28:24.80 ID:PR8wYl2Go
「社会勉強をしたくてね。レジ打ちとか古本屋さんの棚整理とか、色々始めたのよ」
「いくつも掛け持ちしてるんですか、スゴいですムギ先輩!」
「褒めてもお茶は出ないわよ〜」
スゴいと言われて、ムギ先輩はとても嬉しそうでした。お金に不自由なんてしないのに、自ら進んで働くなんて、ムギ先輩は人がよく出来ています。
11:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:29:03.29 ID:PR8wYl2Go
「後ね、澪ちゃんとりっちゃんは別のサークルにも入ったんだよ。二人とも同じ『しいた』同好会なんだって」
「……角度同好会とは、かなりマニアックな集まりですね」
「ぷぷっ。あずにゃん、知ったかぶっちゃダメだよ〜」
ムカッ。確かにダメ元で言いましたけど……。
12:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:29:49.93 ID:PR8wYl2Go
唯先輩は得意気に続けます。
「あずにゃん、『しいた』っていうのはね、この詩のどんな所がいいかを調べたり、実際に作って見せ合いっこする所なんだよ」
「……唯先輩、その同好会、『しいた』じゃなくて、『しいか』だったりしません?」
「ほぇ?」
ムギ先輩の方を見ると、うんうんと二度首肯してくれました。
13:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:31:02.68 ID:PR8wYl2Go
「しかし、澪先輩はともかく、律先輩もそこに入ったんですね。意外っていうか……」
そう言うと、二人は示し合わせたかのように顔を見合わせて、ふふふと意味深に笑いました。
「何かあったんですか?」
「うふふ、そこにも健気なドラマがあるのよ。初めは澪ちゃんが、もっと詩の勉強をしたいってそのサークルに入ったのだけど、それを律ちゃんが聞いたら、その日の内に律ちゃんも入っちゃったの。『澪のポエムが暴走したらマズい』とか『人見知りが暴走して気まずくなった時の為に』って言ってたけど……」
「りっちゃんも素直じゃないよねぇ。二人のことはちゅーの一件で皆知ってるのに」
14:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:31:40.52 ID:PR8wYl2Go
「あの、私だけ話がついていけてないんですけど……」
そう言うと、二人の動きがぎくっと静止しました。
「あ、あれ、あずにゃん、何も知らない?」
「思い当たる節はありませんけど……」
「そ、そういえば、梓ちゃんはあの場にいなかったわね」
15:名無しNIPPER[sage]
2019/11/10(日) 22:31:59.93 ID:9e0/ywHE0
読み辛っ
自己満[田島「チ○コ破裂するっ!」]なら他所でやれよ
16:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:32:15.53 ID:PR8wYl2Go
「あの、私だけ話がついていけてないんですけど……」
そう言うと、二人の動きがぎくっと静止しました。
「あ、あれ、あずにゃん、何も知らない?」
「思い当たる節はありませんけど……」
「そ、そういえば、梓ちゃんはあの場にいなかったわね」
17:>>15 マス開けミスってました。スマソ
2019/11/10(日) 22:34:29.78 ID:PR8wYl2Go
そう思っていると、どこからともなく古典風な笛や太鼓の乾いた音色が聞こえてきました。きっとお神輿が担がれ始めたのでしょう。
「お祭り、始まったみたいですね
「あ、ほ、ほんとだっ! 早く行こうよっ、ね、ねね!」
「そ、そうね。私も久しぶりだし、ちょっとでも長く見ていたいわ!」
「ささ、早く行こあずにゃん!」
18:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:36:14.62 ID:PR8wYl2Go
夕方のふわふわした暖かさが街へ溶け出したからでしょうか、薄灰色だった雲は目を射差すような橙色に染まり、その日光と盆提灯、屋台からこぼれた白色蛍光が混ざり合って、その光景はまるで夢や思い出の一シーンのように、全景がぼんやり滲んだ、とても幻想的な風景でした。
19:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:37:19.61 ID:PR8wYl2Go
「あずにゃん、たい焼き食べる?」
「ありがとうございま……って、いつの間にそんなに買ったんですか!?」
気付けば唯先輩は持てるだけの食べ物を買ったという風体で、さながら食べ物の着ぐるみをまとっているかのようになっていました。
「まま、好きなの選んでよ。たこ焼きたい焼きさいきょう焼き、フライドポテトにスーパーポテトもあるよ」
「豊富ですね……」
20:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:38:47.75 ID:PR8wYl2Go
「じゃあ、たい焼きを一つ」
「あいまいど! お嬢ちゃん可愛いからタダね!」
「誰ですか」
そう言って受け取った一尾のたい焼き。紙ごしでも伝わる温かさは、屋台から貰った出来上がりも同然の温もりでした。
……もしかして、私が食べると思って、最後に買ってくれたのかな……?
21:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:39:53.61 ID:PR8wYl2Go
たい焼きを食べ終わる頃には、唯先輩の手元にはりんごあめしか残っていませんでした。食べている最中にムギ先輩にも譲っていたのですが、それにしたって尋常じゃないスピードです。
「あずにゃん、そんなにじーっと見てどうしたの?」
「一瞬で食べ物が消えてたらじーっと見たくもなります」
そう言っても唯先輩は依然、小首を傾げて、自分の口元手元に目線をやっていました。
「あっ、分かった! りんごあめも食べたいんだ。欲しがりさんめ〜」
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