【シャニマス SS】P「プロポーズの暴発」夏葉「賞味期限切れの夢」
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48: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:49:25.29 ID:oj63shz20
 俺の意識は二年前の記憶から立ち返り、現実の黒い海の砂浜に戻ってきていた。

 ……ふと、風が吹いた。
 突風だった。急な陸風だ。俺はぐらつき、言葉を噛み締めるように目を閉じていた夏葉もまた、その風に対応できなかった。夏葉の白い中折れ帽子が風にさらわれ宙を舞う。数秒ほど滞空して、帽子は海に落ちた。

 俺は弾かれるように飛び出した。海に向かって着の身着のままで駆け出していた。夏葉が制止の声を飛ばす。それを俺は後ろ手で制した。

 海に飛び込みたい気分だった。きっと帽子のことがなくても、俺はこの海をどうにかしてやろうと行動を起こしていただろう。それほど黒い海が気に入らなかった。海の黒さを恐ろしく思う自分に腹が立っていた。

 海に踏み込む。
 海水は冷たかった。靴に容赦なく水が入り、靴下と擦れてぐちょりと不快な音を出す。

 ズボンに水が染み入り、ずしりと重くなった。腰に飛沫が当たり水が跳ねる。一波、二波と寄せるごとに体の芯が揺さぶられるようだった。

 鳩尾のあたりまで水につかった。ネクタイとジャケットくらいは外すべきだったと後悔しそうになる。せめてもの幸運は浜が遠浅になっていて、これ以上沈み込まずに済むことぐらいだろうか。

 そして、寒さに体が震えた。海の嫌な臭いが鼻をつく。波に靴の片方が絡めとられ、海のどこかへと消えた。服の下に空気が残り、気持ちの悪い浮遊感に襲われる。腕の動きはみるみる鈍くなって、俺の心から熱を奪っていく。

 それでも、もがいた。
 俺は叫び出したかった。
 俺は叫び出したかったのだ。



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