【シャニマス SS】P「プロポーズの暴発」夏葉「賞味期限切れの夢」
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46: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:47:47.37 ID:oj63shz20
「い、いや……今のは……」

 喜ばれるはずがない。
 そう思って誤魔化そうとしたのに。
 誤魔化すより先に、夏葉がにこりと笑った。

「ふふっ」
 それは朗らかで、包み込むような笑みだった。

「ありがとう。当たり前じゃない」

 ――その時、俺の胸中に去来したものが何であったのか、今ならばよくわかる。

「夏……葉……」

 手の震えが止まらなくなった。その手で自身の右頬に触れる。何も感じない。
 インクはとっくに乾いていて、指に赤色が着くことはない。皮膚の細胞は忘れっぽくて、数秒前の弾力を覚えていてはくれない。俺ひとりでは、そこに『よくがんばりました』があることすらわからない。

「……俺にも、さ。……ってるのかな」
 だから確かめたかった。確かめてもらいたかった。

「似合ってる……のかな。俺にも、これが……似合っているのかな」
 夏葉が俺の右頬に手を添えた。

 俺の右頬と右手と、夏葉の左手が触れあう。体温が伝わる。彼女の瞳に映る俺は、見たことのない顔をしていた。泣きそうなくせに、まるで陽だまりにいるようだった。

 手が離れた。互いの息を感じられるかのような距離で彼女が言う。その言葉と表情を、俺はきっと、最期の時が来ても忘れない。

「ええ、とっても。――それも、当たり前のことじゃない」



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