88: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 03:00:19.79 ID:OJA0wgUK0
誰だって一度は、自分と他人の誰かが似ていると思ったことがあるはずだ。
でもそれは、無数にある自分の性質とその人の性質の中に、たまたま一致したものがあっただけだったりする。
そして、同じ時間を長く共有していればその分だけ、似ていると感じる部分が多くなるのだ。
十七歳の私はそんなことにも思い至らずに、私と彼は似ているのだと信じて疑わなかった。
私も彼も思考回路がやや中性的だったから、価値観が合うことが多かった。
普段は一歩引いて周りを見ているのに、ふとした瞬間に感情的になるところも似ていた。
確かに彼と私は、一部分においては似ていたと言える。
それでも、肝心なところで私たちは異なっていた。
彼の行動の理由を考えるとき、私は決まって、彼になりきって、彼の思考回路を類推してみる。
そしてそれは、大抵の場合上手くいっていた。
しかし今回の件――彼が「緑色の空」の話をした理由に関して、彼の気持ちを想像してみても、どうにも思い当たるものが無かった。
私は見返したかったのだ。
嘘と演技のバリケードで覆い隠されている彼の本質を見破って、一泡吹かせたかった。
彼の本質を見抜いたその先に、彼に認められるような未来があると信じていた。
一種の反骨精神のようなものだったと思うけれど、振り返ればそれは、彼の目にはただの反抗期のように映っていたのかもしれない。
相変わらず真剣に取り合ってくれないような言動がほとんどだったし、私はそんな彼の態度にいちいち怒っていた。
私はこんなにプロデューサーのことを考えているのに、どうして彼は私に見向きもしないんだ。
そんなことを考えては、しょげたり拗ねたり苛立ったり、急に恥ずかしくなったり情けなくなったりしていた。
二年も経てば、さすがに自分を客観視できる。
二年前の私はあまりに傲慢だった。
他人に努力を望むくせに、自分は労力を払わないような人間だった。
それに気付くのはもう少し後の話だ。
当時の彼の眼中には、ちゃんと私が映りこんでいた。
私がその事実に気付けなかったのは、彼が本音を隠していたからだ。
大人は本心を隠すのが上手い。
そして、大人は狡い。
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