76: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:52:36.35 ID:OJA0wgUK0
「杏、俺はそろそろ時間なんだ」
「時間って、何の?」
「……とにかく、時間がないんだ」
「うん。時間がないし、早く答えてよ」
「えっと、何だっけ。忘れちゃったよ」
まだ続けるのか。
苛立ちは加速度的に膨らんでいく。
それは彼が時間稼ぎに精を出しているからというのもあったけれど、それ以上に、彼の行動の節々に私を子ども扱いしているような態度が現れていたからだった。
――彼のその態度は、子ども扱いという言葉が適切かどうかはわからないけれど、そうと表現する以外に言いようがない。
見下しているだとか軽蔑しているだとか、そういう類の態度ではないことは確かだ。
ぞんざいに扱われていたわけでもないし、むしろ彼は私を丁寧に扱っていた。
どちらかと言えば、彼の私に対する態度は、丁寧過ぎたとも言える。
彼の中には、彼自身が定めていた、踏み越えてはいけない一線というものがあったように思う。
彼はその一線を踏み越えないように、慎重にコミュニケーションをしていた。
私に必要以上に干渉しないようにしていたのだ。
確かに、コミュニケーションにおいて、過干渉になり過ぎないことは大切だ。
でもそれは、出会って日の浅い人間同士の話だ。
長い間アイドルとその担当プロデューサーという関係だったのに、お互いに無闇に干渉しないというのは、あまりに淡泊すぎる。
彼は私に関心のあるふりをしていたけれど、本質的なところで無関心だった。
私自身に、関心を持ってほしかったのだ。
そうやって、肝心なところで私から目を逸らすんだ。
私は『プロデューサーに会えなくて寂しい』とまで言ったのに。
人にあんなことまで言わせておいて、自分はだんまり。
これだから大人は狡いんだ。
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