74: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:51:18.11 ID:OJA0wgUK0
俺のところに戻りたいんじゃなかったの。
今はもう、そうでもないかな。
寂しいって言ってたくせに。
そういえばそんなことも言ったね。
でも、あいつのところに残るんだろ。
今はそういう気分なんだよ。
俺には杏が分からないよ。
人間なんてそんなもんだよ。
私は私で、僅かに張りつめていた空気から解放され、清々しい気分に浸っていた。
その傍らで、私は次の会話のシミュレーションをしていた。
忘れてはいけない。彼の真意を問い質すことが、私がやるべきことのもう半分なのだ。
部屋に痛々しいぐらいに射し込んでいた夕暮れの茜色は、気が付かないうちに消え入りそうな薄い赤になっていた。
それと交代するように、藍色が空を漂い始める。
日は既に沈んでいるようだった。
段々と日の入りが遅くなってきたとはいえ、夜は人の気が付かないような速度で忍び寄ってくる。
家まで送っていってやるよ、と立ち上がったプロデューサーを、私は言葉で制する。
「待って」
――まだ、聞いていないことがあるんだよ。
彼は心底不思議そうな顔をしていたけれど、私はその表情の中に、微かな怯えを感じ取った。
プロデューサーなりの、虫の知らせというやつだったのかもしれない。
そしてその予感は、ちゃんと的中している。
私は尋問の続きをしに来たのだから。
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